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神戸地方裁判所 昭和57年(行ウ)8号 判決

原告

北野菊三

原告

川口治夫

原告

前北貞美

原告

長尾泰正

原告

鷲尾和秀

原告

松岡和四

原告

北野修三

右原告ら訴訟代理人弁護士

隅田勝巳

被告

宮崎辰雄

右訴訟代理人弁護士

奥村孝

右訴訟復代理人弁護士

鎌田哲夫

右同

中原和之

主文

一  原告らの請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、神戸市に対し金三億五〇〇〇万円及びこれに対する昭和五七年三月三〇日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

(本案前の答弁)

1 本件訴えを却下する。

2 訴訟費用は原告らの負担とする。

(本案の答弁)

主文同旨

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  当事者

(一) 原告らは、肩書住所地に居住する神戸市の住民である。

(二) 被告は、昭和四四年一一月二八日以降神戸市長の職にあり、神戸市が実施する須磨ニュータウン、西神ニュータウン及び西神流通業務団地等の内陸部宅地造成並びに東部第一ないし第四工区、西第一ないし第三工区、ポートアイランド及び六甲アイランドの各港湾埋立てによる土地造成等の開発事業の執行を、神戸市から委任されている者である。

2  神戸市の開発事業と財政危機

(一) 神戸市は、起債主義と収益事業を二本の柱とする都市経営を行つている。そのような都市経営は昭和二四年頃神戸市が鐘紡工場跡地約一六五〇〇〇平方メートルを買収したことから始まつている。その頃、被告は復興局整地部長をしており、当時の小寺市長から右土地の買収資金調達について相談を受けるや新方式の起債を考えつき、これにより鐘紡から土地を買収し、右土地が旧湊川敷であることに目をつけて砂利を堀り出し、その砂利を公共事業に使用し、採取した穴にレンガやコンクリートを放り込んで、その跡地に競輪場を建設して事業益を取得した。これが神戸市の収益事業の「はしり」である。

神戸市の収益事業が本格的に始まつたのは被告が助役に就任した昭和二八年からであり、同年から昭和四五年まで神戸港の東西に亘り沿岸の埋立事業が行われた。このため六甲山系の山を削り、跡地を宅地とし、土砂は効率よく運搬して海を埋め立てるという方法をとつて、山と海の同時開発がなされ、昭和四一年からポートアイランド、昭和四六年から六甲アイランドの建設にかかり、昭和五五年度にポートアイランドの竣工をみた。これらの点からみると、神戸市の収益事業の中核をなすものは、山及び海の土地造成であり、いわゆる不動産開発事業である。この事業資金は内外の起債でまかなわれている。つまり、借金をして土地造成を行つて収益をあげるという政策である。この政策は土地開発を行えば必ず儲かるという石油ショック前の列島改造論に通じるものであり、高度経済成長を前提としたものであり、二度の石油ショック後の極度の経済不況に合致しないものであり、近い将来破局を迎える可能性が大であつた。

(二) 事実、最近の神戸市の財政は起債による不動産開発事業が裏目に出て一兆円を超える借金をかかえている。別表(一)のとおり、神戸市の起債残高は毎年約一〇〇〇億円の増加をみ、昭和五二年度の起債残高は一般会計、特別会計及び企業会計を合せて六四一五億円であつたが、僅か四年後の昭和五六年度末には一兆〇六四三億円、同五七年度末には一兆一五〇〇億円、同五八年度末には一兆二二〇〇億円という途方もない巨大な金額に達している。大体、起債残高が約一兆円であれば、その利子払い等に八〇〇ないし九〇〇億円の資金が必要となつてくる。何故なら、起債の場合の債権者に対する利子は年七、八分とみられ、これに起債に伴う債権管理費用を加算すると、起債元本に対し年間八、九分の資金が必要となつてくるからである。神戸市の一〇回のマルク債の応募者利回りの多くが年七パーセント前後であり、中には八・二五パーセントの高率のものもあり、その外に右外債発行及びその返済に種々の費用がかかるものとみられるので、総額でかなりの程度の費用がかかる筈である。この外債だけで人工島の建設費をまかなえないから、国内債も発行しているが、神戸市が六甲アイランド埋立等のために昭和五一年一月二四日に発行した一五〇億円の事業公債の発行利率は八・五パーセントとなつている。しかも、神戸市が市債を発行する場合、銀行、生命保険等に引受けてもらう以外に神戸市の広報を通じて一般市民に働きかけて、多数の市民に小口の債権の引受けをしてもらうという方法がとられている。

したがつて、人工島建設のための国内債には元本に対し年一割を超える資金コストがかかるものと考えられる。これらの点からみて、起債残高が一兆円を超えた昭和五六年度には年間一〇〇〇億円近い利子払いが必要であつたとみられる。また、昭和五二年度以降毎年一〇〇〇億円宛起債残高の増大をみているが、その毎年の起債増大分の相当部分は起債の利子払いで消えたとみられる。従つて、最近の神戸市の財政状態は借金の利子払いのためにまた新しい借金をしたり、或いは借金返済のためにまた新たな借金をしたりして借金を増大させるという借金地獄に陥つているものとみられる。

右のような借金地獄に陥ちいつた主因は、神戸市が巨額の起債等により埋立造成した六甲アイランドが予定どおり売却されていないからである。

ポートアイランドが成功したからといつて、六甲アイランドが成功する保証はない。ポートアイランドの成功要因を検討すると、むしろ六甲アイランドは不成功に終る可能性が大である。ポートアイランドが成功したのは、それが神戸港の真中に存在し、しかも三宮から車で五分という絶好の位置にありながら、ポートアイランドの土地の売値が三宮付近のそれの約四分の一だつたからである。これに比べ、六甲アイランドはポートアイランドと異なり、神戸市内の東端の東灘区の住吉川の河口の沖合にあつて立地条件が悪い。しかも、埋立ては神戸市街の西方の須磨の奥の山から土砂をとつて、海岸までベルトコンベヤーで運び出し、更に須磨海岸からはるばる住吉川沖合まで船ではこんで埋め立てるのであるから、埋立費用は割高になる。ところが、阪神間から泉南にかけての大阪湾の埋立ての殆んどが海が浅いので浚渫方式で行われており、これらの埋立費用は六甲アイランドに比べると遙かに安くてすむ。大阪及びその周辺地域に安い費用で埋め立てられた土地が多数存在し、その中に買手のつかない広大な土地が方々にある現状のもとで、立地上これらの土地とさほど優位性があるとは考えられない六甲アイランドが、ポートアイランドの如く成功する見込みは少ない。

それに、六甲アイランドの建設の開始の時期が高度経済成長の末期であり、時期の選択を誤つている。即ち、六甲アイランドの事業年度は昭和四六年度から六〇年度となつているが、昭和四六年はニクソンショックが発生し、昭和四八年に第一次石油ショックが発生し、昭和五四年度に第二次石油ショックが発生している。第一次石油ショックまで一〇パーセントを超える二桁台の高度成長を続けていた我が国経済は、第一次石油ショックで一挙に五パーセント台の成長に落ち込み、第二次石油ショックで更に三パーセント台の経済成長となり、民間企業の設備投資は不振で、住宅建設も低調を極めている。六甲アイランドに新しい産業を誘致し、良い生活環境の都市を作る計画のようであるが、高度成長を前提とした計画であり、二度の石油ショック後の低成長時代に適合した計画でないことは明らかである。

(三) 次に、神戸市は須磨ニュータウン、西神ニュータウン及び西神流通業務用地等の内陸部宅地造成、並びに東部第一ないし第四工区、西部第一ないし第三工区、ポートアイランド及び六甲アイランドの各港湾埋立てによる土地造成等の開発事業を実施し、このため、開発事業会計上、神戸市の開発事業の歳出金額は別紙(二)のように年毎に拡大の一途をたどるが、他方、歳入金額は昭和五三年以降同(二)のように伸び悩み収入不足の状態が続くという極めて不健全なものであつた。その結果、この開発事業の拡大と共に、各年度末の開発事業会計の負債未償還額も年ごとに増大している。その増大の状況は、別紙(三)開発事業会計未償還残高一覧表のとおりである。この表によれば、開発事業会計の各年度末の負債未償還額は昭和五〇年度が一〇一一億円であつたものが、昭和五七年度には一七九五億円に増大しており、毎年一〇〇億円以上の負債増となつている。仮に、被告の主張するとおり、昭和五七年三月末のポートアイランド関連のドイツマルクの残債が一億五三〇〇マルク(一マルク九五円五八銭のレートで計算すると、約一四六億二三〇〇万円)であつたとしても、その時期(昭和五六年度末)の開発事業会計の未償還残高は一六六八億円に及んでいる。従つて、仮に被告の主張するとおり、ポートアイランド埋立のために借りた外債が減少しているにしても、神戸市はポートアイランドの造成をもつて開発事業を中止した訳ではなくこれを上廻る規模の開発事業を行つているので、開発事業の負債残高は前記のようにどんどん脹らんでいるのである。

神戸市の開発事業会計は、昭和五四年度以降毎年三〇〇億円ないし四〇〇億円の収入不足が続き、負債残高も前記のように毎年約一〇〇億円宛増大している。しかも、仮に神戸市が開発事業によつて収益をあげているにしても、その収益は単に帳簿上のものにすぎず、開発事業会計の資産は流動性の低い固定資産が大部分である。即ち、昭和五七年度末の開発事業会計の資産は総額で二六〇七億円となつているが、その内、固定資産は二〇四七億円であり、総資産の七九パーセントを占めている。固定資産の売却は困難であるうえ、借入れには当然限界があるから、現在の巨額の収入不足とこれを補う借入増の状態が続けば開発事業会計が将来黒字倒産の状態になるおそれが十分にある。

(四) 更に、神戸市の外郭団体の増殖とその収益活動は、神戸市の財政の一層の悪化をもたらしている。本件においても後述するように財団法人神戸市開発管理事業団(以下「事業団」という。)は神戸市が巨額の資金を投入して造成したポートアイランド内の一等地を土地の公租公課相当額という破格に安い負担で借り、これをゴルフ練習場に使用して多額の収益をあげているが、これは、対等な市場メカニズムの原則に基づいたものではなく、親たる立場の自治体が子たる立場の外郭団体を支援するものであり、その結果は、親たる自治体が損をし、外郭団体が自治体から不当な利益を吸い上げていることになる。

このように、外郭団体が自治体に寄生して自治体から不当な収益をあげ、その反面、自治体が損害を蒙るということが各分野で行われているものとみられ、本件は、その氷山の一角が露呈したものとみるべきである。神戸市の外郭団体は約四〇余りに達し、その殆んどが黒字だと言われ、これが被告の都市経営の手腕の卓越性を示すものと宣伝されているが、単なる経営手腕だけでこんなことが起り得る道理がない。神戸市本体と外郭団体との間に市場原理に反した財産の移転又は貸借が行われている筈である。現に、外郭団体が増大すると共に神戸市の予算規模が急速に拡大し、また市債残高もこれと共に急増している。別紙(一)市債現在高一覧表記載のとおり、昭和五四年から昭和五七年にかけて、毎年約一〇〇〇億円ずつ借金が増え、昭和五七年の年度末(昭和五八年三月末日)には一兆一五〇〇億円に達している。その借入先は、資金運用部、簡易保険局等の政府資金が約三一七五億円、市債の市場公募による借入が一六六五億円、銀行の縁故借入が三七四九億円、公営企業金融公庫からの借入が一〇〇四億円、外債が九七七億円等となつている。このように、神戸市は昭和五八年三月末に、政府、銀行、その他国内の市債購入者は固より外債まで発行して、総額一兆一五〇〇億円に及ぶ借金をしているが、翌昭和五九年三月末になると、この借金が更に一兆二二〇〇億円に達しているのである。神戸市の市税収入は、昭和五七年度で僅か一五三〇億円にすぎないから、昭和五九年三月末の一兆二二〇〇億円の借金は、神戸市の約八年分の税収額に相当するのである。この借金のうち、約六五パーセントは特別会計の借金であり、その特別会計の中でも、開発事業会計の借金が最大であり、昭和五七年の年度末には、別紙(三)開発事業会計未償還残高一覧表のとおり、一七九五億円に達しているのである。このように、神戸市財政は、著しく不健全な状態になつており、まさに危機的状態に陥つている。その中でも開発事業会計が毎年借金を一〇〇億円ずつ増加させなければやつて行けないような危機的状況に立ち至つている。

(五) 最後に、ポートアイランドの埋立事業に限つても、右に関して神戸市が宣伝している内容に多分に誇大宣伝的な要素がある。まず第一に、神戸市は常々五三〇〇億円を投じてポートアイランドを建設したと宣伝している。この宣伝を聞いていると、恰も神戸市がポートアイランドの建設費の五三〇〇億円の全部を支出したかのように聞える。そうすると、神戸市は五三〇〇億円もの資金を捻出できるものであると思われるので、神戸市は何と資金力の豊かな自治体であるなと感心させられる。しかし、実際に神戸市が支出した事業費はその一部にすぎず、右五三〇〇億円の中には国や国の特殊法人たる阪神外貿埠頭公団その他が支出した事業費が沢山含まれている。神戸市が現実に負担した埋立地造成費及び港湾建設事業費の総額は、市の単独事業として支出した金額が八六六億円、補助事業として支出した金額が二三三億円であるから、全体で一〇九九億円となる。しかし、この一〇九九億円の中には補助事業の支出に対する補助金が含まれているので、これを差引くと神戸市が実際にポートアイランドの造成事業に支出した額は一〇〇〇億円程度とみられる。前記のように、昭和五七年三月末の開発会計の借金は約一七〇〇億円であるから、この時期においても神戸市がポートアイランドの造成等のために支出した約一〇〇〇億円の約一七倍の借金が存在しているのである。

次に、神戸市が外債を発行してポートアイランドを建設したと宣伝している点も事実とはかなり相違している。被告主張によれば、神戸市がポートアイランドの造成のために発行した外債は四億ドイツマルクであつて、邦貨に換算して三七四億円である。前記のように、神戸市はポートアイランドの造成事業のため、約一〇〇〇億円の資金を投入している筈であるから、この事業費のうち外債で賄つた額は全体の四割弱にすぎない。外債以外の資金は国内の起債等で賄つている筈である。従つて、外債を発行してポートアイランドを作つたという宣伝は誇張であり、事業費の四割は国内での借金では調達できなかつたので外債で賄つたというのが真相である。

(六) 以上のように、神戸市は巨額の借入金債務を抱え、しかも、開発事業会計は収支不均衡の状態が多年に亘つて続いており、神戸市の財政は著しく不健全であつて、まさに危機的状態に陥つている。

3  被告の怠る事実及びその違法性

(一) 神戸市は、昭和四一年以来巨費を投入し、十数年の長年月をかけて神戸港の沖に四三六ヘクタールに及ぶポートアイランド埋立事業を完成させ昭和五〇年五月一〇日には公有水面埋立法の規定による竣工認可をえて、神戸市中央区港島中町四丁目の二一四二七平方メートルの土地(以下「本件土地」という。)の所有権を取得した。

(二) 被告は、神戸市が財政危機の状況下で巨額の資本を投じて埋立造成した本件土地を、昭和五四年八月七日から事業団に無償かあるいはそれに近い対価を得るだけで使用させている。

仮に、被告主張のように、事業団が毎年本件土地の固定資産評価見込額の一・七パーセント(これは固定資産税と都市計画税の相当額にすぎない)に相当する約金一八二一万二〇〇〇円を使用の対価として神戸市に支払つているとしても、同金員の支払いは本件土地使用の正当な対価としての性格をもつものではなく(本件土地の時価は三・三平方メートル当り金五〇万円であり、被告は本件土地をゴルフ練習場として恒久的に使用することにより毎年一億円以上の収益を上げているのに、右の使用対価の金額は適正賃料の九分の一の金額にすぎない)、借主が当然に負担すべき税金等必要費の範囲を出ないものであるから、事業団は本件土地を適正な対価としての賃料を支払つて賃借しているものとはいえず、むしろ、実質的にみて、事業団は本件土地を無償で借り受けて使用(使用貸借により使用)しているものといわざるをえない。

そして、事業団が本件土地を使用する目的は、娯楽施設利用税の課税対象となるゴルフ練習場の経営であつて、純然たる営利産業に属する営利事業を行うことであるから、地方自治体の神戸市がそのような収益事業を行う団体に本件土地を無償もしくはそれに近い対価で使用させて莫大な収益をあげさせ、他方それにより民間の同業者の経営を圧迫することは甚だしい違法行為でもある。

(三) 被告は、昭和五四年八月七日から本件土地を事業団に無償か少なくとも正当な対価なく使用せしめている。

事業団は、翌八日から本件土地に九〇打席を擁するゴルフ練習場を開設し、一般大衆を相手とするゴルフ練習場の営業を行つており、右営業内容、形態等からして事集団の右営業はレジャー産業に属する純然たる営利事業である。

(四)(1) 被告は神戸市の市長であるが、市長は、市の財産を取得し、管理し、及び処分する権限を有するものであり、(地方自治法一四九条六号)市長が市の事務を担任するに当たつては、普通地方公共団体の執行機関として、自らの判断と責任において、誠実に管理し及び執行する義務がある(地方自治法一三八条の二)。

ところで、ポートアイランドの造成事業は、神戸市が実施している臨海土地造成事業、内陸土地造成事業の一環として行つているものであり、右臨海及び内陸の造成を含めた開発事業は、地方公営企業法二条三項、並びに地方公営企業法の財務規定等を適用する事業の設置等に関する条例(昭和四一年一二月二〇日市条例第三六号)に基づいて実施されている。

いうまでもなく、地方公営企業法は地方自治法の特別法であり、地方自治体の経営する同法二条一項所定の企業には、当然、地方公営企業法が適用される。

神戸市の前記開発事業は、同法二条一項所定の企業ではないが、同法二条三項により、前記条例に基づき、同法二条二項の財務規定等が適用される事業である。

(2) しかし、地方公営企業は、その経営主体が地方自治体であるという意味で公営の企業であるが、企業運営そのものは公権力の行使には当たらず、民間企業と同一の側面をもつものである。そして、本件開発事業は、地方公営企業法の財務規定等を適用する事業として行われているものであるから、開発事業は地方公営企業法三条所定の経営の基本原則に則つて執行されなければならない。そして、右三条によると「地方公営企業は、常に企業の経済性を発揮すると共に、その本来の目的である公共の福祉を増進するように運営されなければならない」と規定されている。従つて、開発事業は企業としての経済性の発揮と公共の福祉の増進という二つの基本原則に基づいて運営されなければならない。

そして、この要請を果たすためには、地方公営企業の経営責任者は、民間の同種企業の経営者と同一の配慮が必要である。しかも、地方公営企業法二条一項所定の企業では管理者が置かれているが、本件開発事業では管理者が置かれず、市長が直接開発事業の運営に当たらねばならないことになつている。

被告は市長として神戸市により受任され本件開発事業を執行するにあたり、前記誠実に管理、執行する義務及び右の企業の経済性を発揮し、公共の福祉を増進する義務を負うものであるが、かかる義務内容は甚だ抽象的である。これらの公法上の義務の具体的内容には、民法上の委任契約において受任者が負担している「委任の本旨に従い、善良なる管理者の注意」を以つて委任事務を処理する義務に通じるものがあると考えられる。即ち、被告は神戸市の行う開発事業の受任者として開発事業の執行につき善良なる管理者としての注意義務を負うものといえる。勿論、地方自治体の長は、自治体との間に私法上の委任者と受任者との委任関係以上の公的関係があり、自治体に対し、私法上の委任契約に於ける善管注意義務を超える高度の注意義務を負うものである。しかし、少くとも地方自治体の長が委任契約上の善管注意義務に違反するならば、当然地方自治法上の執行機関として遵守すべき誠実義務に違背したものとみるべきである。

(五) 次に、被告の本件土地の貸付けは、公法上の諸規定、とりわけ地方自治法等に違反しているので違法である。

(1) 本件土地は神戸市の公有財産であり、地方自治法二三八条一項一号に該当する不動産である。

(2) ところで、公有財産は行政財産と普通財産とに分類され、行政財産とは普通、地方公共団体において公用又は公共用に供し、又は供することを決定した財産をいい、普通財産とは、行政財産以外の一切の公有財産をいうと規定されている(地方自治法二三八条二、三項)。

本件土地はゴルフ練習場用地に供されており、公用又は公共用に供されていないことは明白で、しかも、神戸市が本件土地を、公用又は公共用に供することと決定した事実もない。

従つて、本件土地は地方自治法上は、神戸市の普通財産である。

(3) 普通財産は、地方自治体が一般私人と同等の立場でこれを所有し、その管理運用又は処分し、これによりその経済的価値を発揮させ、これを行政の財源にあてるべきものである。

従つて、普通財産は、原則として一般私法のもとに、これを貸し付け、交換し、売り払い、譲与し、若しくは出資の目的とし、又はこれに私権を設定することができることになつている(地方自治法二三八条の五第一項)。

(4) しかし、地方財政法八条は「地方公共団体の財産は、常に良好の状態においてこれを管理し、その所有の目的に応じて最も効率的に、これを運用しなければならない」と定めている。

したがつて、普通財産は一般私人と同様な立場で所有し、管理し、処分しうるとしても、右規定により常に「良好な状態」で管理し、「最も効率的」に運用しなければならない。

この点からすると、本件土地を全く無償で事業団に使用させ、或は事業団から使用料名下に金員を受領してもそれが本件土地の時価から算出される本件土地使用の対価を下まわるものであるならば、かかる土地管理は地方財政法八条に違反するものである。

(5) しかも、地方自治法二三七条二項は、「第二百三十八条の四第一項の適用がある場合を除き、普通、地方公共団体の財産は、条例又は議会の議決による場合でなければ、これを交換し、出資の目的とし、若しくは支払い手段として使用し、又は適正な対価なくしてこれを譲渡し若しくは貸し付けてはならない」と規定している。

しかして、右規定に引用されている二三八条の四は、行政財産の管理及び処分に関する規定であるから、普通財産の貸付けに関して言えば、普通財産は条例又は議会の議決がなければ、正当な対価なく貸し付けてはならないことになつている。

(6) 本件土地は、正当な対価なく事業団に貸し付けられているものである。そこで、右貸付けにつき、条例又は議会の議決がなされたか否かについて検討する。

ア まず、条例について言えば、公有財産の交換、譲与、無償貸付け等に関して条例が制定されているが、神戸市が普通財産を無償で貸し付けたり、あるいは時価よりも低い貸付料で貸し付けることのできる場合は、

(ア) 貸付けを受けた者が、市の事務・事業を補佐し、又は代行する団体であつて、補佐又は代行する事務・事業の用に供する場合。

(イ) 他の地方公共団体、その他公共団体において、公用又は公共用に供するとき。

(ウ) 右(ア)、(イ)と同程度の特別な必要性があると認められるとき

の三条件のいずれに該当する場合に限定されるところ、事業団は本件土地をレジャー産業に属するゴルフ練習場営業を行うための営業施設の用に供し、事業団は本件土地を使用して公益法人の目的外の違法な営利事業を行つているから、前記の(ア)、(イ)、(ウ)のいずれにも該当しないことは明白である。

イ 次に事業団に本件土地を貸し付けるについて、議会の議決があつたか否かについて検討するに、本件土地は不動産登記法に違反し、保存登記も経由されておらず、しかもその所在は、神戸市中央区港島中町四丁目の中にある二万一四二七平方メートルというだけで地番すらない土地であるから、このような状態のままで本件土地の貸付けに関する議案を議会に提案し得る筈がない。若し、本件土地の貸付けに関する議案が議会に提出され、その賛成があつたとするならば、それ以前に本件土地の保存登記が経由され、地番も設定済みとなつている筈である。

本件土地の保存登記を七年以上に亘つて懈怠している事実は、普通財産である本件土地を事業団に貸し付けるについて、議会の議決がなされていないことを示すものである。議会は、普通財産の例外的運用処分に関する議決権を有しているが(地方自治法九六条一項六号)、被告は本件土地を事業団に使用せしめるにつき、議会の承認を得ていない。

(7) 以上のように、被告は条例又は議会の議決がないのに本件土地を事業団に正当な対価なく貸し付けているのであるから、被告の本件土地の貸付けは地方自治法等に違反し違法なものであることは明らかである。

(8) 被告が事業団に本件土地を無償同様に貸し付け事業団の民法三四条違反の収益活動を助長すること自体も違法である。

ア 事業団は、被告主張のように、神戸市が事業を記念して設置した福祉、文化及びリクリエーション等の施設を管理運営し、併せて開発事業に関する各種の役務を提供することにより、市民の福祉の増進と文化の向上を図ることを目的として昭和四四年四月に神戸市出資の基本金二〇〇〇万円で設立された公益財団法人である。

イ しかし、事業団は、神戸市の名称を付し、理事等の役員に神戸市役所の幹部等が就任し、基本財産が全部神戸市によつて出資されているとしても、公法人である地方自治体とは別個の法人格であり、しかも、民法により設立された財団法人で、公益を目的とした私法人であるから、神戸市の分身又は同一体とみる余地のないものである。

ウ そして、公法人である神戸市は、普通地方公共団体として地方自治法が適用され、普通地方自治体の住民は、その所属する自治体の選挙権を有し、自治体の長及び議会の議員は、住民の選挙により選出され、普通地方自治体の会計は、地方自治法、地方財政法等の公法により規制されるほか、住民に監査請求、住民訴訟をなすことも認められている。これに対し、事業団は前記公法と関係のない一般私法である民法により設立された私法人であり、事業団を規律する法律は民法であり、地方自治法や地方財政法等の公法の領域外であつて、議会が事業団の意に反して、その運営に干渉することができず、住民が事業団の財務に関し、監査請求等を行つてこれを民主的にコントロールする権限は全くない。勿論、事業団が得た収入は、事業団自身の財産であつて、普通地方自治体である神戸市の財産ではない。

エ ところが、事業団は被告の発想に基づき設立の趣旨目的を逸脱して営利活動まで行うに至り、神戸市の外郭団体という名の下に神戸市開発局に寄生し、同局の所管する本件土地を公租公課相当額というような一般常識では到底考えられないような、全く只同然の軽微な負担で借り受けたうえ、本件土地でゴルフ練習場経営を実施して営利会社顔負けの高収益をあげている。しかし、公益を目的として設立された事業団が、パチンコ、麻雀と共に地方税法四条二項五号所定の娯楽施設利用税が課せられ、純然たるレジャー産業に属するゴルフ練習場を経営することは、民法三四条に違反し目的外の行為をなすものであつて違法である。ところで、地方公営企業法三条は、地方公営企業が企業の経済性を発揮するほか、公共の福祉を増進するように運営すべきことを定めているが、本件土地は地方公営企業法の財務規定の適用される開発事業によつて造成された土地である。しかるに、前記のように事業団は民法三四条に違反して、営利を目的として純然たるレジャー産業に属する営利事業を行つているのに、被告が右開発事業により造成された本件土地を、右事業団の右営業のために提供しているのである。この被告の行為は、事業団の民法三四条の違反行為に加担するものであるから、公共の福祉を阻害するものであつて、公共の福祉の増進をはかることを定めた地方公営企業法三条に違反する違法なものである。

(六) 次に、被告の本件土地貸付け行為は、民法等の委任規定に違反し違法である。

(1) 神戸市は、内陸及び臨海の開発事業を行つているが、同事業は六甲山系の山を削り、その土砂で海岸を埋め立て、更に、海に人工島を建設するものである。この開発事業は、その規模が巨大であるが、開発事業の本質は、民間会社が資金を投入して、土地を造成する開発事業と同一である。

開発事業を資金面からみると、資金を投下して土地開発を行い、竣工した土地を売却して投下資金を回収するというものであつて、ここに資金の循環性がある。

神戸市の開発事業も、山を削つて土砂を採取し、これを運搬して海の埋立てをするのに巨額の資金を投下しているのであるから、埋立てが竣工し、土地造成が完成したら、これを販売して、投下資本を回収すべきである。

この投下資本の回収は、出来る限りすみやかに行うべきは当然であるにもかかわらず、本件土地に関しては、全く逆に、巨額の資金を投下して後述のとおりの時価三〇億円を超える本件土地が完成したのに、本件土地を売却してその投下資本の回収をはからないのみか、正当な対価もなしに事業団に使用させることは、開発事業運営の基本原則を全く無視するものである。

(2) 殊に、人工島の埋立てに、昭和五五年度までに西ドイツで一〇億マルク(邦価換算約一二三〇億円)、昭和五六年度にスイスで一億スイス・フラン(同約一二〇億円)を発行し、翌五七年度も昭和五六年度と同様、一億スイス・フランの外債発行を実施しつつある。

外債は、国内債と異り、為替相場の変動に伴う損益の発生するものであり、勿論、国内債と同様に借入金利の支払いを伴うものであるから、かかる資金を投入して完成した埋立地は、完成後すみやかに売却して投下資本を回収し、右埋立事業のため内外から借り入れた資金の返済に充当するか、あるいはこれを適正な対価で賃貸して埋立事業の借入残金及びその利息金の支払いの財源とすべきが当然である。

(3) しかるに、神戸市が財政逼迫した状況の下で巨額の外債等により調達した資金を投下して本件土地の埋立事業を完成させその所有権を取得したのであるから、市の財産を自らの判断と責任において誠実に管理し執行する義務のある被告としては、本件土地を遅滞なく譲渡し、又は適正賃料を取得して賃貸するなりして投下資本の回収もしくは市の財政負担の軽減を図るべきであつたにもかかわらず、本件土地を他に売却せずに事業団に正当な対価なしに使用させているので、被告のかかる行為は神戸市から開発事業の実行を受任した者としては善良なる管理者の注意をもつて受任事務を処理すべき義務を怠つたものであることは明らかである。

また、神戸市は昭和五〇年五月一〇日に公有水面埋立法の規定による竣工認可を受け本件土地の所有権を取得したが、現在に至るまで一〇年余が経過しているが、本件土地の保存登記をしていない。

しかし、不動産登記法八〇条一項は、「新ニ土地ヲ生ジタルトキハ、所有者ハ一ケ月内ニ土地ノ表示ノ登記ヲ申請スルコトヲ要ス」と規定しているので、神戸市の財産管理責任者である被告としては前記竣工認可から一か月以内に保存登記をする義務があるのに、被告は神戸市の首長として真先に法律を遵守すべき立場にありながら今日まで保存登記義務に違反した重大な違法行為を行つているものである。

さらに、被告の右保存登記の懈怠は、神戸市に簿外資産を取得させるものであり、これは被告の開発事業の会計処理が地方公営企業法二〇条一ないし三項、さらに地方公営事業に適用される私法の根本原理に著しく違反し違法に行われていたことを物語るものである。

そうすると、被告が本件土地の保存登記を怠たりこれを神戸市の簿外財産として合法的な手続を経ずに事業団に無償もしくはこれに近い対価を得て貸付ける行為が、私法の面からみても違法なものであることは明白である。

(七)(1) 以上、要するに、被告は本件土地を遅滞なく譲渡して投下資本を回収すべき義務を怠つたのみならず、昭和五四年八月七日からは本件土地を事業団に貸し渡しながら適正な対価を徴収すべき義務を怠つたものであるから、右は地方自治法上の前記誠実義務、地方公営企業法上の経営原則及び民法の委任契約上の受任者の善管注意義務等に違反し違法である。

(2) してみると、被告の右行為は神戸市所有の本件土地を違法に財産管理したか若しくは違法に財産管理を怠つた事実に該当するものといわざるをえない。

4  損害

被告が本件土地を売却せずに事業団に無償もしくはそれに近い対価で貸し付けるといつた前記違法な財産管理ないし財産管理の懈怠により、神戸市に発生せしめた損害は次のとおりである。すなわち、本件土地が三・三平方メートル当り時価五〇万円なので、本件土地は21.427÷3.3×50.000(円)=3.246.515.151(円)の計算のとおり三二億四六五〇万円であるから、これを遅滞なく譲渡すれば、少なくとも三〇億円の投下資本の回収が出来た筈であり、この資金を年五分で運用すれば、一年間に金一億五〇〇〇万円の収益が得られ、また、右三〇億円を外債の繰り上げ償還ないし外債発行額の滅額に回すと、外債の利率は低い年で年五・七五パーセント、高い場合は年八・二五パーセントであつたから、右金額以上の出資の節約となつた筈であるが、同利率を控え目に年五分と見積もつても、年間一億五〇〇〇万円の損失となり、昭和五四年八月七日から昭和五六年一二月六日までの二年四か月の間には、神戸市は三億五〇〇〇万円の得べかりし利益を喪失したことになり、被告は神戸市に右金額の損害を与えている。

仮に、被告が本件土地を事業団に対し年間わずか一八二一万二〇〇〇円という著しく低い金額で賃貸しているとすれば神戸市は年額一億三一七八万八〇〇〇円(二年四か月では概算で三億〇七五〇万五〇〇〇円)の損害を受けていることになる。

5  住民監査請求

そこで、原告らは、地方自治法二四二条に基づき、昭和五六年一二月二三日、神戸市監査委員に対し監査請求を行つたが、神戸市監査委員は昭和五七年二月一八日原告らの監査請求に対し、措置の必要は認めないとの結論を出し、翌一九日原告らにその旨を通知した。

6  よつて原告らは神戸市監査委員の監査結果に不服であるので、地方自治法二四二条の二第一項四号に基づき、神戸市に代位して、被告に対し、神戸市に三億五〇〇〇万円及びこれに対する昭和五七年三月三〇日から支払済みまで、民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  被告の本案前の主張

1  地方自治法二四二条の二第一項による訴えは同法二四二条による住民監査請求を前提とした訴えであるから、住民監査請求で主張しなかつたことを訴えで主張できない。

原告らの昭和五六年一二月二三日付け住民監査請求は、「埋め立て完成した土地を遅滞なく譲渡することを怠り、これを違法に営利事業を行う事業団に無償で使用せしめているのであるから宮崎市長の行為は受任者の善管注意義務に反し適法な財産管理を怠るものであつて、違法な財産管理である」との主張である。

ところで、同法二四二条二項は「前項の規定による請求は当該行為のあつた日又は終わつた日から一年を経過したときはこれをすることができない」と定めているので、原告ら主張の無償の土地使用か否かということは、昭和五五年一二月二四日から昭和五六年一二月二三日までの一年間のこととして論じられなければならない。すなわち、原告らが本件訴えで求めている損害賠償のうち昭和五四年八月七日から昭和五五年一二月二三日の部分は不適法として却下を免れない。

2  同法二四二条一項による住民監査請求は「違法」以外に「不当」を理由とすることができるが、同法二四二条の二第一項による住民訴訟は「違法」しかその理由とすることができない。この「違法」とは文字どおり法令の規定に違背することをいうのであつて、原告代理人の主張のように賃料が適当か否かということは「不当」の主張そのものである。「不当」を理由とする同法二四二条の二第一項の住民訴訟は不適法な訴えである。

3  以上のとおり、原告の本件訴えは不適法である。

4  原告の本件訴えが、被告が違法に財産管理を怠つた行為に対し住民訴訟を提起したものと解しても、以下の理由から不適法である。

(一) 住民監査請求及び住民訴訟の対象である「財産の管理を怠る事実」が存在しない。

「財産の管理を怠る事実」(以下「怠る事実」という。)とは、一般的・抽象的には、執行機関・職員が法律上当然に行うべき義務を有する財務会計上の行為を職務懈怠によりおこなわないことの違法をいい、具体的には公有財産を不法に占用されているにもかかわらず何らの是正措置を講じない場合等(昭和三八、一二、一九行政実例)をいうのである。

ところが、原告らの主張する怠る事実とは、神戸市が埋立事業により取得した本件土地を、遅滞なく時価で譲渡することを怠ることなのである(原告の詳しい主張でも無償で貸し付けていることに重点を置いた部分もあるが損害額の計算では譲渡しないことを前提にしている。)。

しかし、神戸市が埋立事業によつて取得した本件土地は他の多くの土地とともにいかに管理するかは、住民全体の福祉の増進に寄与させる政策決定の問題となり、地方公共団体の長たる被告の政治的裁量にまかされている。

そこで、被告は、本件土地の利用計画(海運・港運関係の予定地)を定め、それに沿つた企業が進出するまでの間暫定措置として、神戸市と事業団との間に本件土地の賃貸借契約を締結したものであり、神戸市が本件土地を空地として管理する場合に比べ、賃料が収入されるとともに本件土地にゴルフ練習場が設置されたことによつて市民レクリエーションの場として、島内の運動施設の整備、緑化の推進等が図られ、周辺の環境整備に資するという機能も営むことになつたのであり、怠る事実には当たらない。

仮に、原告らの主張するように、本件土地を遅滞することなく時価で譲渡しなければならないとすれば、地方公共団体は、普通財産を一切所有することができなくなり、効率的な行政運営ができないこととなつてしまうのであるがこのようなことは法も予想していないのである。

また、市長は開発事業について企業の経済性がその運営に要請されているとしても、開発事業によつて得た財産の管理・処分については、地方公共団体の長として、住民福祉の増進という観点から誠実に事務を遂行すれば足りる。

(二) 本件訴訟は、地方自治法二四二条の二第一項四号に定める代位請求の要件を欠く。

右代位請求の要件とは、職員の違法な行為等によつて地方公共団体に損害が生じたこと(いわゆる客観的要件)のほか、その職員が当該地方公共団体に対して損害賠償義務などの実体法上の損害補償の義務がある場合であること(いわゆる主観的要件)を要するものと解するのが相当であるところ、本件訴訟は、右のいわゆる客観的要件を欠くものである。

すなわち、前述したように本件土地の利用方法については、被告の裁量によるものであつて、売却譲渡すべき法的議務のないところから、原告らの主張するような利益の発生が予想される場合があるとしても、それは単に期待可能性から生ずる結果論であり、債務不履行若しくは履行遅滞又は不法行為による損害の発生でないことは、自明の理である。

(三) なお、原告が主張する事業団のゴルフ練習場の経営が、公益法人に関する民法の規定に違反するとか、本件土地の保存登記が解怠されているとかいう点は、法二四二条、同二四二条の住民訴訟の理由になりえないものであることは明らかである。

5  以上のとおり、本件訴えは不適法である。

三  請求原因に対する認否

1  請求原因1項の事実のうち、(一)の原告らが神戸市の住民であること、(二)被告が昭和四四年一一月二八日以降神戸市長であることは認め、その余の事実は否認する。

2  請求原因2ないし4項は、いずれも否認又は争う。なお、ポートアイランド埋立事業及び事業団の詳細は後述のとおりである。

3  請求原因5項の事実は認める。

4  請求原因6項の主張は争う。

四  被告の主張

1  ポートアイランド埋立事業について

(一) 埋立事業の必要性

神戸は、古くから天然の良港としての条件に恵まれ、昭和三〇年代からの日本経済の急速な発展と世界的な物流の増大は、必然的に神戸港における貨物量の増大をもたらし、船舶の大型化と輸送方法の革新は、在来の港湾施設にも大きな変化をもたらした。

一方、都市施設に対する市民の欲求も質・量に亘つて多様化し、政治、経済、産業、文化等の都市機能を受け入れることのできる新しい都市空間の必要性が生じてきた。

神戸市では、昭和三八年頃から新しい人工島の構想について検討を重ねてきた結果、昭和四一年初めにポートアイランド埋立基本計画を策定し、同年四月建設に着手した。その後、土地利用計画が具体的に検討され、″住み″″働き″″憩い″そして″学ぶ″という人間にとつて欠くことのできないこれらの機能を持つたポートアイランドの実現に向かつて事業は進められた。

(二) 事業の概要

ポートアイランド埋立事業のあらましは、次のとおりである。

(1) 事業年度 昭和四一年度から昭和五五年度まで

(2) 埋立面積 四三六へクタール

(3) 埋立に要する土量 八〇〇〇万立方メートル

(4) 総事業費 五、三〇〇億円

内訳

(埋立地造成費 二三〇〇億円)

(上物建造費 三〇〇〇億円)

(5) 土地利用計画

ア 埠頭用地 一四六へクタール(埋立面積の三三パーセント)

イ 港湾機能用地 八七へクタール(同 二〇パーセント)

ウ 都市機能用地 一二〇へクタール(同 二八パーセント)

エ 道路護岸等用地 八三へクタール(同 一九パーセント)

計 四三六へクタール(同 一〇〇パーセント)

なお、本件土地は、都市機能用地のうちの流通業務用地に当たる。

(6) 事業主体

ア 国(第三港湾建設局)

防波堤、防波護岸、物揚場

イ 阪神外貿埠頭公団 コンテナ埠頭、一般外航定期船埠頭

ウ 神戸市 埋立事業、神戸大橋、道路、新交通システム、公園、緑地等

(三) 事業の進捗状況

(1) 建設の経過

ポートアイランドは、昭和四一年に建設工事に着手して以来、その事業は順調に進捗した。主な経過は、次のとおりである。

四一年 四月 防波護岸工事着手

四二年 四月 埋立工事着手

四三年 四月 神戸大橋建設工事着手

同   六月 第一回神戸市マルク債発行(その後、ポートアイランドでは第四回まで発行)

四五年 四月 神戸大橋開通

同   七月 コンテナ第一号岸壁供用開始

四六年 三月 全埋立土量の五〇パーセント投入完了

五一年 八月 住宅用地の処分開始

同   五月 北公園完成

五二年 二月 兵庫県生活科学研究所建設工事着手

同  一〇月 中公園完成

五三年 八月神戸ポートアイランド博覧会開催計画の発表

五五年 三月 公団住宅の入居開始

同   四月 神戸市立港島小学校開校

同   八月 新交通システム(ポートライナー)試運転開始

五六年 一月 ポートピア大通り完成

同   二月 合同完成工式

新交通システムポートアイランド線の営業開始

同三月 神戸ポートアイランド博覧会開催

五七年 四月 定着人口 約一万人

(2) 処分の状況

ポートアイランドの埋立地の処分は、計画的な造成のもとに、あらかじめ策定された土地利用計画に沿つて順次行つている。別紙(四)図面のとおり、昭和五五年度末で全体の八九パーセントの処分が完了しており、未処分率は一一パーセントとなつている。これを用途別にみると埠頭用地では一〇〇パーセント、港湾機能用地では九二パーセント、海運・港運関連の流通業務及び加工サービス用地では七〇パーセント、コミュニティスクエアでは一〇〇パーセント、インターナショナルスクエアでは三九パーセントの処分が既に完了している。なお、博覧会終了後も順次処分を行つているが、昨今の社会経済情勢から未だ売却に至つていない所もある。流通業務用地にある本件ゴルフ練習場の用地は、海運・港運関係の予定地であり、具体的な売却計画は立つていないが、今後本来の利用目的に合致した企業があれば、速やかに処分することとしている。

(四) 未処分地の管理

昭和五五年度末未処分地については、進出企業が決定するまでの間、本件ゴルフ練習場(約二・一へクタール)、球技場(約一・五へクタール)、駐車場(約二・八へクタール)等として暫定的に利用している。これは、更地として未利用のまま放置するより、市民に体育リクレーション施設用地や福利厚生施設用地等としてこれを提供し、効率的な運用を図る方が望ましいと考えるからである。

(五) 事業と財政

ポートアイランドの埋立事業は、地方公営企業法二条三項及び四条並びに地方公営企業法の財務規定等を適用する事業の設置等に関する条例(昭和四一年一二月神戸市条例第三六号)二条及び六条の規定に基づき、開発事業の一環として一般会計とは別個の企業会計を設けて実施しているものである。この埋立事業に要する財源は、マルク債の発行及び埋立地の売却代等で賄つたが、マルク債については昭和四三年六月に第一回を発行して以来、同四四年、同四六年、同四七年と計四回合計四億ドイツマルク(約三七四億円)を発行した。なお、償還には埋立地の売却代が充てられているが、昭和五七年三月末までに二億四七〇〇万ドイツマルクを償還し、残債は、一億五三〇〇万ドイツマルクとなつており、昭和六二年度をもつて完済する予定である。

2  事業団について

(一) 事業団は、神戸市が開発事業を記念して設置した福祉、文化及びリクリエーション等の施設を管理運営し、併せて開発事業に関する各種の役務を提供することにより、市民の福祉の増進と文化の向上を図ることを目的として昭和四四年四月に基本金二〇〇〇万円(全額を神戸市が出捐)で設立された財団法人である。昭和五六年七月現在の事業団の職員数は、八一名であり、主たる事業は、次のとおりである。

(1) 遊泳施設及びこれに付帯する施設の管理運営に関する事業(鶴甲、かるも、新神戸の各プール)

(2) 球技場及びこれに付帯する施設の管理運営に関する事業(深江球技場、名谷・西神テニスガーデン)

(3) 福祉文化施設及びこれに付帯する施設の管理運営に関する事業(鶴甲・渦森・高倉・名谷南の各会館)

(4) 神戸市、進出企業及び団地内住民から委託を受けて行う埋立地及び住宅団地の管理運営に関する事業(住宅分譲、宅地管理、緑地管理等)

(5) 開発地域における進出企業及び団地公益施設等の関連住宅並びに各種施設の用地の取得、造成、管理及び処分(商業施設、ビルの用地取得等)

(6) 開発地域における進出企業及び団地公益施設等の関連住宅並びに各種施設の取得、建設、管理及び処分(CATV、商業施設、ビル、駐車場の建設受託及び工事監理等)

(7) 前各号に掲げるもののほか、事業団の目的を達成するために必要な事業(須磨海水浴場の監視、ゴルフ練習場等)

(二) 事業団のゴルフ練習場経営は民法三四条に違反するものではない。

公益を目的とする法人がその事業の経営資金を得るために収益事業を営むことは、公益目的に反するものではない。民法三四条に規定する営利とは、構成員の経済的利益を追及し、終局的に収益が構成員に分配されることであり、公益と矛盾しない収益は、営利とはいえないものである。

事業団は、寄附行為第三条の趣旨に則り、同第四条第七号の補完的付帯事業としてゴルフ練習場を経営するものであり、このことは、民法三四条に何ら違反するものではない。現に法人税法四条一項においても公益法人が収益事業を行うことが肯認されている。

3  本件土地管理の適法性

(一) ポートアイランド内におけるゴルフ練習場は、当初、事業団によつて昭和五二年七月二一日から神戸市中央区港島中町五丁目及び六丁目(別紙(五)図Ⅰの部分)に設置されていた。その後神戸市において右練習場用地の一部をポートアイランドの土地利用計画に従い高層集合住宅用地として分譲することとなり、このため右練習場地は昭和五四年八月八日から本件土地(別紙(五)図面Ⅱの部分)へ移転された。

(二)(1) 本件土地は、地方自治法二三八条一項一号に規定する不動産であり、神戸市においては、普通財産として管理している。

その管理については、被告は、本件土地が本来の利用目的に合致した企業に売却されるまでの暫定措置として、住民福祉の増進をも考慮して事業団に貸付けているのであるが、その賃貸借契約も神戸市公有財産規則の三三条の規定により締結し、貸付期間についても本件土地は、一時使用を目的としていることから、同条一項三号の規定により一年間の契約とし、暫定措置としての目的を同規則上も満たしている。

(2) なお、神戸市は、本件土地につき当初の利用計画どおり流通業務用地としての売却を計画しており、昭和五九年においても関係業界に買受希望調査をしている実情にあり、本件土地のゴルフ練習場としての利用が暫定のものであることは明らかである。

(三) 原告らは、右賃貸借契約における貸付料が本件土地の時価から算出される本件土地使用の対価を下まわるものであるならば、かかる土地管理は、地方財政法八条に違反する旨主張するが、右主張は失当である。

すなわち、同条の規定は、地方財政の健全性確保の見地から、地方公共団体の財産の管理・運用の原則を規定したものであり、何ら具体的基準が示されておらず、本件土地の貸付料にかかる違法性の判断を同条に求めることはできない。

(四) 次に原告らは、本件土地の貸付料が正当な対価でないとして地方自治法二三七条二項の規定に違反する旨主張するが、これも失当である。

(1) 本件土地は、開発事業の所管するものであり、地方公営企業法四〇条一項の規定により、地方自治法二三七条二項の規定の適用を受けない。

(2) 本件土地の借地人である事業団は、神戸市が開発事業を記念して福祉、文化、レクリエーション等の施設も管理し、あわせて開発事業に関連する各種の役務を提供することにより、市民福祉の増進並びに市民の文化及び体位の向上に寄与し、総合的なサービスの提供を通じて、都市機能の回復及び豊かな都市環境の確保に資することを目的として、昭四四年四月に基本金二〇〇〇万円(全額を神戸市が出損)で設立された財団法人である。

(3) 事業団は、地方自治法二二一条三項の規定が適用される公益法人であり、同条一項に規定する予算執行の適正化を確保するための普通地方公共団体の長の調査権が及び、また、同法二四三条の三第二項に規定するところにより、普通地方公共団体の長が事業団の経営状況を説明する書類を作成し、議会に提出することが義務づけられている。

(4) このように、神戸市と事業団とは別の法人格を有しているというものの、地域住民の福祉の増進を図るという目的では同一であり、また、事業団の役員及び管理職は神戸市職員で構成されており、事業運営についても神戸市と密接に連絡調整を行いながら実施されており、行政補完型の公益法人である。

(5) このような公共性の高い事業団がその設立の趣旨に則り、補完的付帯事業としてゴルフ練習場を経営することは、島内の運動施設の整備、緑化の推進という公共的機能の推進に資することとなるので、被告は本件土地の本来の土地利用計画に沿つた土地処分までの暫定貸付けという事情を考慮して、神戸市財産の交換、譲与、無償貸付等に関する条例七条の規定に基づき「公益上特に必要がある」と認め、賃料年額約一八二一万二〇〇〇円の減額貸付けをしたものであり、何ら違法性はない。

(6) 被告の事業団への本件土地貸付けは、使用貸借契約ではなく右のとおり賃料を徴収しての賃貸借契約である。すなわち、一般私人間の使用貸借契約において、公租公課が民法五九五条一項の通常の必要費に含まれ、借主の負担に帰せしめられるのは、貸主が土地等の所有者として貸借の存否にかかわらず現実に公租公課を支出することが避けられないからである。公租公課を負担することのない神戸市と事業団との間で設定されている本件ゴルフ練習場に係る賃料は、固定資産税及び都市計画税相当額を算定の基礎として設定されたものである。

神戸市は本件土地を第三者に売却した場合も固定資産税と都市計画税を取得しうるだけであるので空地のまま放置するより右税相当額の賃料を収得すれば収益としては十分満足しうるのである。

賃料をとつて貸すというのであれば、ただ単に賃料が安すぎるというだけでは賃貸借の成立を否定することはできない。

(五) してみると、被告には住民監査請求及び住民訴訟の対象である「違法に財産の管理を怠る事実」が存在しない。

五  原告の反論

1  被告の期間制限違反の主張(本案前の主張)について

(一) 地方自治法二四二条二項は「前項の規定による請求は、当該行為のあった日又は終つた日から一年を経過したときは、これをすることはできない。ただし、正当の理由があるときは、この限りでない」と規定しているが、同条項所定の行為とは「作為」の行為に限定され、違法若しくは不当に財産管理を怠る事実にかかる請求については、その性質上期間制限の規定の適用がない。

(二) 原告らが住民監査請求をした要点は、神戸市が埋立事業により取得した本件土地を、遅滞なく時価で譲渡することを怠り、営利事業を営む事業団に本件土地を無償で使用させて違法に本件土地の財産管理を怠り、昭和五四年八月八日以降の二年四か月間に、神戸市に三億五〇〇〇万円の損害を発生させたということにある。そして、右監査請求の中の本件土地を無償で使用させたという趣旨は、事業団から本件土地の使用・収益の対価と認められるに足る賃料を受け取らずに、事業団に本件土地を使用させたという趣旨であつて、事業団から全く使用料を受け取らなかつた場合のほか、仮に事業団との間で何らかの契約を締結し、これを賃貸借契約と称して事業団より賃料名義で金員を受け取つていたとしても、その賃料の額が、本件土地の使用・収益の対価として認められる賃料額に比して低廉な場合には、事業団より受け取る金員は、単に賃料と称するだけで、本件土地の使用・収益の対価ではないから、事業団から賃料を受け取つたとは認められず、かかる場合、事業団との契約は実質的にみて、賃貸借ではなく、使用貸借と認められるから、このような場合も、事業団に無償で使用させたという趣旨に含まれるのである。

(三) 被告は、事業団が神戸市と本件土地の賃貸借契約を結び、神戸市に賃料を支払つている旨主張するが、被告の右主張は虚構である。

仮に、神戸市と事業団との間で賃貸借契約が締結されたとしても、それは単に賃貸借契約という名称を使つているだけで、実質的には使用貸借契約であり、さらに、事業団から賃料と称して金員を受け取つていたとしても、それは本件土地の使用・収益の対価と目し得るほどのものではないことは前述のとおりである。

(四) したがつて、原告らの住民監査請求が、被告の違法に本件土地の財産管理を怠る事実を対象とするものである以上、地方自治法二四二条二項に定める一年の期間制限は適用されないので、被告のこの点に関する主張は理由がない。

2  被告の財産管理が「不当」の問題にすぎないとの主張(本案前の主張)について

被告は事業団から賃料として税金相当額を受領している以上、事業団に本件土地を無償で使用させたことにならず、右税金相当額が賃料として高いか安いかは、被告の財産管理が不当か否かの問題にすぎず、違法か否かの問題ではないから、本件住民訴訟は不適法な訴えである旨主張する。

しかし、本件土地の税金相当額をもつて本件土地の使用の対価とみられない場合は、神戸市が事業団から賃料を受領したことにはならないから、事業団に税金相当額で使用させることは違法であり、本件訴えは適法である。

3  事業団のゴルフ練習場経営の違法性について

(一) ゴルフ練習場の経営が営利事業であつて公益事業でないことは被告も認めているところであるが、被告はゴルフ練習場経営は本来の財団設立の目的である公益事業ではないが、事業団の目的を達成するために必要な事業であるから、事業団の目的の範囲内の行為であり、民法三四条に違反しないと主張する。しかし、公益法人の場合の目的達成に必要な行為の範囲は、営利法人の場合とは異なり厳格に解せられるべきである。

したがって、仮に本来の公益目的を達成するために収益事業を営むことが認められるとしても、それはあくまでも本来の公益事業を行う手段として、附属的ないし補完的に認められるにすぎず、本来の公益事業と密接に関連し、本来の公益事業に比較して過大なものであつてはならない。

(二) ところが、事業団の行うゴルフ練習場営業は、公益事業として許容されされる限界内の収益事業でないことは次のとおり明らかである。

(1) 事業団のゴルフ練習場営業は、事業団の本来の目的たる公益事業とは何ら補充的関係も密接な関連性もない。

(2) 公益事業の行いうる収益事業は、公益事業の性格からみて、公益法人が実施するにふさわしい事業でなければならないが、ゴルフ練習場営業は、およそ公益法人の行う収益事業としてはふさわしいものではなく、かかる収益事業は公益法人には禁止されているものとみるべきである。

(3) 公益法人の行いうる収益事業は公益法人の設立目的を阻害しない範囲に限定されるべきであるから、許容される収益事業の規模には社会通念上おのずから一定の限界があるが、事業団の営業活動の実態をみると、本件ゴルフ練習場営業が事業団の事業の重要な部分を占め、かつ神戸市内のゴルフ練習場経営企業の経営を圧迫しながら、年間に基本財産二〇〇〇万円の五倍を超える一億数百万円の収益をあげているのであるから、本来の公益事業の附随的ないし補助的な収益活動とはとうていみられない。

(4) 被告は本件ゴルフ場経営は、本来の公益事業経営の資金を得るために行つており、構成員に利益が分配されないから、公益目的に反しないと主張するが、元来事業団は公益財団法人であつて、構成員に収益を分配すること自体ありえないことであり、また、事業団の公益事業を遂行するために必要とする経費は、基本財団の果実によつてまかなうべきものであつて、公益事業の必要資金を収益事業に求めることは本末転倒である。

4  神戸市と事業団との間の本件土地利用に関する法律関係について

(一) 事業団が本件土地を無償で使用していることは以下の事実から明らかである。

(1) 本件土地(ポーアイ・グリーン・センターゴルフ練習場)は、市民の健康増進と用地の管理(空地管理)を兼ねた施設であり、事業団は地主である神戸市の委託を受けて本件土地を管理する立場にあつた。通常、用地の管理をする者は、地主から委託した用地の管理料を受けることがあつても、その逆に管理者が委託者に金銭を支払うというようなことは考えられない。何故なら用地管理は委任又は準委任であると考えられるからである。従つて、事業団が用地の管理者という立場で本件土地を占有している以上、地主である神戸市に地代等を支払つているとは考えられず、事業団は、管理するという名目で本件土地を無償で使用していたものと解せざるを得ない。

(2) ポートアイランドと都心を結ぶポートライナーは、訴外神戸新交通株式会社という営利法人によつて経営されているが、右法人も社長が助役であつて、神戸市が出資し、神戸市の幹部が経営にあたつているものであるが、同社は神戸市が建設した施設を無償で使用し、多数の乗客から受け取る一回一六〇円の運賃収入は、神戸新交通株式会社の利益となる仕組みとなつており、事業団も右会社と同様に経営者が神戸市幹部であり、出資者も神戸市であるから神戸市の本件土地を無償で使用しているものと推認できる。

(3) 被告は神戸市と事業団との間で賃貸借契約が締結されたというが、右契約書(乙第三号証)には賃料の額が明示されず、単に

という賃料の算式が記載されているにすぎない。固定資産評価見込額というのは全く訳の判らないものであり、神戸市は未だ本件土地の保存登記をなさず、固定資産の評価もなさず、本件土地の固定資産税は私法人である事業団が使用する限り、その徴収をあきらめるという不合理を前提にしており、また右数式の〇・二八三三三というのも契約書の文面にその趣旨が明示されず、前記賃料の数式自体が不明確極まるものである。被告は右契約書五条の数式を計算すると年額一八二一万二〇〇〇円となると主張するものとみられるが、数式と年額についての合理的、具体的根拠は示されていないから、右契約書をもつて右年額の賃料を定めたものとみることはできない。しかも右契約書に賃借人として事業団を代表して記名捺印した井尻昌一理事は神戸市の助役であつて、市長である被告の指揮監督下にあるものであるから、右契約書は恰も夫婦、親子、兄弟、親族間の契約と同様に馴れ合いで作成することが可能であるから、神戸市の開発事業会計に事業団から被告主張の賃料が支払われたことを示す決算書その他の客観的証拠の提出のない限り、賃料支払の証明があつたとはみられない。現段階では単に賃貸借と称する契約書が提出されただけで、賃料支払いを証明する証拠は提出されていない。

(4) 更に、右契約書(乙第三号証)は、原告らの住民監査請求後、市長である被告と被告の指揮監督下にある助役との間で馴れ合の下に日付けを遡らせて作成されたものである。

ア 原告らが住民監査請求をした日は、昭和五六年一二月二二日であるが、同日以前に事業団が神戸市に本件土地の使用に関して金銭を支払つた事実は全くない。すなわち、事業団が右契約書の日付けどおり昭和五五年四月一日に神戸市と契約を結んだのであれば、同契約書五条二項に基づき、昭和五五年四月一日から昭和五六年三月三一日までの一年間の税金相当額一八二一万二七三六円を年度末の昭和五六年三月三一日までに神戸市に支払わなければならないことになる。ところが、被告から右年度末までに昭和五五年度分を支払つたという証拠が提出されていない。

イ 被告から事業団が本件土地の使用に関して金銭を支払つたという証拠として提出されたのは、領収済通知書(乙第五号証)であるが、その日付けは原告らが監査請求をした後の昭和五七年一月八日となつている。右領収済通知書の支払金額は一億一九五三万九二六七円であり、その中には、本件土地の昭和五五年度の貸付料一八二一万二七三六円が含まれているとのことである。しかし、昭和五五年度といえば、昭和五五年四月一日から翌昭和五六年三月三一日までの期間と考えられるが、前記賃貸借契約書(乙第三号証)によると、契約期間は昭和五五年度の期間中の一年間とされ、その期間の使用料の支払期限は当該年度の末日で、これを過ぎると年一四・六パーセントの割合の遅延利息を支払う義務があり、神戸市は事業団に使用料の滞納があると、何らの催告も要せず契約を解除できる旨の定めがあるとされている。したがつて、昭和五五年度分は、支払期限の昭和五六年三月末日から九か月余り延滞したうえ、その元金のみ翌五七年一月八日に支払われ、右払いまでの間に滞納を理由とする契約解除がなされなかつたということになる。若し、事業団が神戸市と本当に前記賃貸借契約書のような契約を交わしていたのであれば、何故これに基づく支払を九か月余りも遅延したのか、神戸市も何故右契約に基づいて遅延利息を請求せず、賃貸契約を解除することもしなかつたのかその合理的理由が主張、立証されていない。

ウ このように、前記賃貸借契約書の内容と原告らの住民監査請求後に事業団が神戸市に支払つた金額との間に、理解し難い点があることからすると、被告らは原告らの住民監査請求を受けたため、従前どおり、事業団に用地管理を委託しているという名目の下に無償で使用させることを継続していたのでは、原告らの請求が認容されるかも知れないと考え、急拠それまで事業団に全く無償で使用させていたことを隠蔽するため、事業団の理事長に就任している助役と謀つて前記賃貸借契約書(乙第三号証)をでつち上げたものと認められる。

エ 本件土地は神戸市が昭和五〇年五月一〇日に公有水面埋立法に基づく竣工認可を受けて所有権を取得したものであるから、不動産登記法八〇条一項により、右竣工認可時より一か月以内に本件土地の表示の登記をなす義務があるのに、右登記義務の履行を怠つている。右登記義務の不履行に対し、一万円以下の過料の制裁規定(不動産登記法一五九条の二)が設けられているが、神戸市が敢て過料制裁を伴うような違法行為まで行つていることからみて、神戸市がその外郭団体たる事業団との間の日付けを遡らせた馴れ合の契約書を作成したとみても、何ら異とするに足りない。

オ 前記賃貸借契約書一条には、神戸市が定める利用計画に従い、処分先が決定するまでの間、臨時的に貸し付けるものであると記載されているが、事業団が本件土地にゴルフ練習場を開設したのが昭和五四年八月八日であり、既に五年余を経過しているので、既に臨時的期間は経過している。そのうえ、事業団が本件土地に設けた設備が恒久的なもので、本件土地が海岸通りより内陸側にあつて、東隣に市立病院及び看護婦の子供の保育所があり、南側は緑地を設けた景観道路で、北側が玉田学園となつているうえ、本件土地が海岸道路より地盛されている状況等からみて、本件土地が被告の主張するように海運港運関係の企業に売却することを予告した土地とはみられず、本件土地が南北に長い扇状の土地であることからみて、最初からゴルフ練習場用地として造成された土地である。従つて、被告が事業団に本件土地をゴルフ練習場用地として恒久的に賃貸したものであることは明らかであり、同契約書一条の臨時的な貸付けである旨の条項は事実に反しており、意図的に貸付期間を偽つたものであり、この点は契約書の日付け遡及を裏付けるものである。

カ 事業団がこれまで本件土地をゴルフ練習場として使用した期間、本件土地に設けた設備の状況、本件土地の周辺の状況、本件土地の形状等からみて、事業団に対する賃貸は恒久的なものであり、しかも、本件土地が二・一ヘクタールという広大な土地であつて、神戸市の普通財産であるから、地方自治法二三七条二項により、神戸市は条例又は議会の議決がなければ、正当な対価なく貸付けることができないことになつている。ところが、被告は事業団に対する貸付が実際は恒久的な貸付けであるのに暫定的であるとの口実のもとに、条例又は議会の議決を受けずに事業団と前記賃貸契約を締結したのである。要するに、前記賃貸借契約書は地方自治法の前記規定に違反して締結されたものであり、この点は、被告らの契約書の日付け遡及を推認させるものである。

(二) 仮に神戸市から事業団に対し本件土地について年額一八二一万二〇〇〇円の賃料が支払われていたとしても、右賃料は本件土地の適正賃料からみると著しく低額であつて本件土地使用の対価とはみられず、実質的にみて使用貸借と同視すべきである。

(1) 被告が賃料と称するものは、税金相当額にすぎない。

この点は被告も認めており、事業団の支払金は本件土地の固定資産税及び都市計画税相当額にすぎないから、社会常識からみて、このようなものは到底賃料とみることはできない。一般に賃料は、賃貸する土地の価額に年五パーセントの収益率を掛けて算出した金額に、土地の税金に相当する額を加えた金額を基礎にして決定されている。ところが、本件土地の場合、賃貸土地に年五パーセントの収益率を掛けた金額に相当する額は、全然支払われていない。本件土地は、坪当り五〇万円であり、全体で三二億五〇〇〇万円の土地である。しかも、神戸市は内外から巨額の借金をしてポートアイランドの埋立事業を竣工させ、本件土地の所有権を取得したのであるから、神戸市が事業団に本件土地の使用収益をさせながら、同土地の前記時価に対する適正な収益率を掛けた金額を取らないということは、資本投下して取得した土地に対する法定果実を全く取得しないことになる。神戸市は本件土地を造成するために、資金を投入しながら、本件土地の所有者として収益をあげることを放棄している。従つて、事業団の支払金は、到底賃料とみることができない。

(2) 事業団の支払金は、借主の負担すべき必要費にすぎない。

事業団の支払金は賃料ではなく、単なる負担にすぎない。しかも固定資産税や都市計画税は本来借主の負担すべき必要費にすぎないものである。従つて、事業団が神戸市に右税金相当額を支払つていても、事業団と神戸市との契約は、使用貸借である。

ところが、被告は神戸市が本件土地を第三者に売却した場合も、固定資産税と都市計画税を取得しうるだけであるので、空地のまま放置するより、右税金相当額を収得すれば、充分満足できるというが、これは全く詭弁にすぎない。即ち、神戸市が本件土地を第三者に売却した場合、右税金を買主から取得できるほか、土地代金として少くとも三〇億円以上の資金を取得することができるのである。被告の主張は、売却により三〇億円以上の土地代金が取得できることを無視したものであり、謬見である。

(3) 事業団の支払金は、本件土地の使用、収益に対する対価ではない。

ア 事業団の支払金が、本件土地の使用、収益に対する対価とみるべきか否かは、①本件土地が港湾関連の流通業務用地として売却される計画・予定の有無、②本件土地の使用、収益の暫定性、③事業団の本件土地の利用形態、特にその公共性、④本件土地による事業団のあげうる収益の程度等の事情を総合して、判定すべきものである。

イ そこで、まず①、②の点について述べると、本件土地が港湾関連の流通業務用地として売却するというのは、本件土地を事業団に恒久的に使用させるための隠れ蓑にすぎず、事実は、当初から恒久的に事業団のゴルフ練習場として利用する土地であり、事業団に本件土地の使用収益をなさしめる時期は、決して暫定的なものではなく恒久的なものである。

ウ 次に、③、④について述べる。

(ア) まず、被告が本件練習場が島内の運動施設であつて、公共的性格を有するという点は全く詭弁にすぎない。事業団は、本件練習場を開設し、ポートアイランドは勿論、神戸市内及びその周辺に住むゴルファーにゴルフ練習場の場所を提供する営業を行つている。このゴルフ練習場営業は、地方税法四条二項五号の娯楽施設利用税の課税対象となるもので、純然たるレジャー産業である。若し、本件練習場が運動施設ないし体育施設というならば、原告ら業者の営業設備も全て運動施設ないし体育施設であり、公共的性格を有する事業ということになる筈であるが、こんな馬鹿げたことがある道理がない。とにかく本件ゴルフ練習場はポートアイランド内の一等地に設けられた最高の施設であり、神戸市内には、その立地条件、施設の現況等あらゆる面で本件練習場に比肩し得るような業者は存在しない。本件練習場は、主に神戸大橋を車で渡つて来る神戸市内全域の練習客をあて込んだものであることは、八〇台分も駐車設備を設けていることからみても明白である。被告の緑化を推進して、周辺の環境保全に資する主張に至つては、まさしくお笑い草以外の何物でもない。事業団は、本件練習場を本件土地の時価を基礎に算出した適正賃料の九分の一という、全く只同様の負担で本件土地を利用しているため、民間業者が真似できないような低料金を設定し、これにより厖大な数の練習客を集めるため、その打席はいつも満員で、場内に客の打つた球が無数にあふれ、いつもこれを拾い集めなければならないため、ネットの中の芝生はふみつぶされて、特にグリーンを設けた場所以外は、その殆んどが地面の露出した状態となつている。従つて、本件練習場が緑化の面で、特に公共的性格を有するものではない。

(イ) 次に、事業団の支払金が、本件土地の使用、収益の対価とみるか否かということは、事業団が現実に本件土地で如何程の収益をあげているかにかかつている。そこで、事業団の収益をみると、昭和五四年度は、新、旧練習場に於いて約七万四〇〇〇人の客を入場させて、約九〇〇〇万円の事業収入をあげ、昭和五五年度は、本件練習場に於いて約九万六〇〇〇人の客を入場させて、約一億二〇〇〇万円の事業収入をあげている。事業団が本件土地を利用してあげた右の収益に比較すると、年間一八〇〇万円程度の金額は、全く微々たるもので、到底本件土地を使用、収益することに対する対価とみることは出来ない。

(ウ) しかも、事業団は財団法人であつて、公益を目的として設立された団体であるから、純然たるレジャー産業に属する営業を営むことは違法である。そのうえ、事業団の出資者は、市民のためにも教育、保険、衛生等の自治行政を行うべき立場の神戸市であるから、事業団か市民から税金を徴収して運営される自治体の庇護のもとに税金を納める原告等の事業経営を圧迫することは、不当極りないことである。このように、事業団の本件ゴルフ練習場の経営が違法にして不当極りないもので、被告の主張するような公益性は全く存在せず、むしろ、その逆であるといわなければならない。

(エ) それどころか、事業団は高収益をあげる株式会社も顔負けする営利追及団体であり、昭和四四年に出資金僅か二〇〇〇万円で出発した事業団が、その後、一〇年間に右出資金の一四倍もの剰余金を稼ぐ有様で、本件のようなレジャー営業の外貸ビル等にまで手をひろげ、まさしく株式会社神戸市の象徴的存在である。

エ 以上の点を総合すれば、事業の支払金は、本件土地の使用収益に対する対価とはみれないものである。

5  本件土地使用の恒久性について

被告は、本件土地が本来の利用目的である海運・港運関連の流通業務用地として売却されるまでの暫定期間に限定して、ゴルフ練習場に使用されているものであると主張するが、本件土地は港湾関連の流通業務用地には全く適さず、現在の利用形態が最適であり、最初から事業団のゴルフ練習場として利用するため造成されたものみられるので、被告の主張は虚構であり、真実は、事業団のゴルフ練習場として恒久的に使用されるものであると認められる。

(一) 本件土地は、海運・港運関連の流通業務用地としてではなく、事業団のゴルフ練習場用地として利用する方針のもとに造成されたものであることは、以下の点から明らかである。

(1) 本件土地はポートアイランドの内陸部に属する土地である。

ア ポートアイランドは近代的港湾としての機能を果す埠頭及び港湾関連施設の用地に利用する外周部と新しい海の文化都市の創造を目的とした内陸部とに二分され、その二分線は、大体別紙(六)図面イ・ロ・ハ・ニ・イの各点を結んだ線となつている。そして、本件土地は外周部と内陸部を分断する湾岸道路の内陸側に位置している(別紙(五)図面参照)。

イ 外周部は埠頭用地、港湾機能用地にあてられ、これらの用地は、出来る限り広い面積を取つて港湾機能をいかんなく発揮するように計画されている。このため、埠頭用地、港湾機能用地を合わせた港湾関連用地は人工島の五三%に達し、その総面積が二三二ヘクタールに及んでいる。既に、これだけの港湾関連用地が確保されている以上、これ以外に更に本件土地が海運・港運関連の流通業務用地に必要となるというようなことは、到底考えられないことである。

ウ 人工島の内陸部は、新しい海の文化都市を創造することを目的として造成したもので、その南半分はホテル、国際交流会館、ファッションタウン等を設けて、国際性豊かな商品の展示と商取引の場を作り、北半分は住居区域とし、居住者のための決適な住居等、うるおいのある街を作るという計画のもとに建設されたものである。

エ 右のような外周部と内陸部の基本的構想の相違は、人工島の交通体系にも表われている。外周部の港湾関連地域に出入するトラック・トレーラー等の大型車は内陸部を通行することが出来ないように規制され、上下二段となつた神戸大橋から人工島にはいる取付道路、人工島から神戸大橋に向う高架道路も前記の交通規制に適合したものとなつている。人工島の内陸部に出入できる車は乗用車、タクシー等、中、小型車に限定されている。本件土地は、人工島の湾岸道路より内陸側に存在することからみて、大型車の出入が極めて不便である。本件土地の東側は車の通行を禁じた遊歩道となつているうえ、本件土地の南側の道路は車道と歩道の間に緑地帯が設けられているため、本件土地と車道が分断されて、南側道路から本件土地に出入することが出来ず、本件土地の北側も玉田学園の建物で塞がれている。従つて、本件土地は車が出入するのに西側の湾岸道路しか利用することが出来ない。これらの点からみて、本件土地は大型車が容易に出入することが出来るということが不可欠の条件となる流通業務用地には極めて不向きな土地である。

このようなポートアイランドの交通体系、本件土地の周辺道路の状況からみても、本件土地が本来海運・港運関係の流通業務用地として使用する計画であるというのは虚構である。

(2) 本件土地のレベルは湾岸道路より高く地盛りされている。

ア 同じポートアイランド内の土地であつても、内陸部では各所に路面より地あげした場所がみられる。例えば、ポートピア大通の東側の住宅区域では、地面が道路面より建物の一階分位高くしてある。これは、住民が住宅区域からポートライナーの駅に行くのに車の通行する道路を渡らずに行けるようにすることを狙つたものである。

イ これに反し、外周部の港湾関連用地は全て道路と同じレベルに造成されている。これは、これらの区域の港湾施設に車が容易に出入できるようにしたものである。

ウ ところが、本件土地は路面より数十センチメートル高く地盛りされている。この程度の高低差は乗用車であればその通過が容易であるが、貨物を満載した大型車には危険である。大型車で本件土地に出入しようとすれば、必ず左折又は右折しなければならないが、高低差のあるところで大型車が右折、左折を行えば、横転する危険すら存在する。

エ 本件土地の構造は、本件土地が海運・港運の流通業務用地でないことを示すものである。

(3) 本件土地の周辺には、ふんだんに緑化施設が設けられている。

ア ポートアイランドの内陸部は緑を配したうるおいのある街とするという計画のもとに、海上都市の建設がなされている。これに対し外周部は総合的な港湾業務の処理と円滑な荷役活動を目的として造成されたものであるから、内陸部の如き緑化施設は存在しない。

イ 本件ゴルフ練習場の周囲の道路の全部に植木がベルト状に植えられ、特に南側の東西道路は車道と歩道の間に公園のように広い緑地帯を配した景観道路であり、東側の道路は車両の通行を一切禁止した遊歩道となつており、緑地となつている。

ウ 本件土地の周辺が緑化されているということは、本件土地が内陸部の海の文化都市という機能を発揮させるために造成された土地であり、港湾に関連した流通業務用地でないことを示すものである。

(4) 本件土地の周辺には、病院、保育所、学校等が存在している。

ア 神戸市は、ポートアイランドが新しい海の文化都市を創造し、神戸市が二一世紀に問わんとしたモデル都市、海の未来都市を建設したものだ等と標ぼうしている。

イ そして、文化都市というものの最低限度の条件は、病院、保育所、学校等の公共ないし文化施設と、企業活動の行われる地域とを明確に区分することである。したがつて、もし本当に本件土地が、海運・港運に関連する流通業務用地とするならば、本件土地の周辺に存在する病院、保育所、学校等のある場所と、右のような業務のなされる土地とが極めて近接する結果となるから、神戸市はポートアイランドが海の文化都市とか二一世紀の未来都市等とかいうことができなくなる。

ウ しかも、本件土地の東側に隣接して、神戸市が最高水準の医療体制を完備した総合病院であると誇る神戸市立中央市民病院がある。本件土地の東側の遊歩道をはさんだ東側に保育所があり、ここには、右病院の看護婦の子供が大勢通つている。更に本件土地の北側には玉田学園という学校まで建設されている。本件土地の南東側にポートピアプラザという高層住宅が建設されている。このようなところに港運・海運に関連した流通業務を行う企業が割込んで来れば、前記の病院、保育所、学校、高層住宅の環境を悪化させることは勿論、多数の病人の回復に悪影響を及ぼすばかりか保育所の幼児や高層住宅の住人等が前記企業の車両により交通事故にあうおそれすら存在する。

エ これら周辺の公共施設等の設置状況からみて、本件土地が本来海運・港運関係の流通業務用地である訳がない。

(5) 本件土地は海運・港運関係の流通業務用として売却される見込のない土地である。

ア ポートアイランドの埠頭港湾地区には、コンテナー埠頭に必要な倉庫、上屋等の港湾関連施設も完備しているうえ、ポートアイランド内の港湾施設の現況並びにポートアイランドの内陸部の都市計画の現況等からみて、本件土地はもはや港湾機能の補完的役割を果し得なくなつており、海運・港運関連の企業は本件土地を必要としていない。

イ ポートアイランドの外周部に設けられた港湾施設は、海上輸送の革新に対応した最新鋭のものである。特に、本件土地の西方にある埠頭は全てコンテナー埠頭である。コンテナー埠頭では貨物は全てコンテナーに入れられているので、クレーンでコンテナーごと船に積んだり、或いは船からコンテナーごとおろすだけで積み降しが完了する。従つて、コンテナー埠頭では、コンテナー用のクレーン、コンテナーを置く広場、小口貨物についてコンテナーに入れたり、出したりする荷捌場があれば十分で、実際、人工島の西岸には五つのコンテナー埠頭があるが、その夫々に広大なコンテナーヤード、これに続く荷捌場が十分な余裕をもつて建設されている。このようなコンテナー埠頭の仕組みからみて、本件土地が西岸のコンテナー埠頭の港湾機能を補完する流通業務用地として売却できる可能性は殆んどない。

ウ 人工島の北岸及び東岸の中埠頭にライナー埠頭が設けられている。このライナー埠頭は在来船が利用する埠頭であるが、コンテナー船が出現した後に於ては旧来のように、本船から貨物を艀に積み、艀で上屋に運び、これに入れるというようなことをしていたのではコンテナー船に対抗出来ないので、在来船もライナー埠頭に碇泊し、埠頭のクレーンでハッチから直接埠頭の倉庫に貨物をおろし、或いは逆に倉庫からハッチに貨物を積むという方法がとられるようになつている。事実、北埠頭、中埠頭のいずれのライナー埠頭も、埠頭の岸壁近くに倉庫が建設され、更に、その背後にこれより大きな倉庫が設けられている。このような点からみて、ライナー埠頭の倉庫、上屋は埠頭と有機的一体性を以つて合理的に建設されていることが判る。本件土地は、北埠頭、中埠頭の各ライナー埠頭から、離れているうえ、人工島内の大型車の通行が周辺道路に限定されている実情からみて、本件土地がライナー埠頭の港湾機能を補完する流通業務用地として売却できる可能性は殆んどない。

(6) 海運・港運関連企業が本件土地を購入する見込はない。

ア ポートアイランドの外周部には、既にコンテナーパース用地として一一五・五へクタール、ライナーパース用地として三〇・五ヘクタールがあてられているほか、港湾関連施設用地、トラックターミナル九・六ヘクタール等の広大な用地が港湾関連企業に既に提供されているので、埠頭用地や港湾機能用地として必要な土地は、これで十分まかなえるのであり、これ以上は不要である。そして、ポートアイランドの外周部の港湾施設は、既に一〇〇パーセント稼動しているのに、海運・港運関連企業から本件土地の購入希望が出ないということは、常識的にみて、本件土地がこれらの企業に不要であることを示すものである。

イ 神戸市は昭和五九年九月になつて初めて港運協会・倉庫協会・船会社の団体に本件土地の需要意向を調査したと主張しているようであるが、これに対して、各団体がどのように回答したかについて被告の主張、立証はない。しかし、右各団体が、本件土地に何等の購入意向も示さなかつたのであろうことは歴然としている。

(ア) まず、神戸港のコンテナー化、或いは近代化によつて港運業者の経営は大きく圧迫され、売上げは低下の一途にたどり、経営の維持がやつとという状態が続き、今後ともそのような状況が続くとみられているので、これらの業者が本件土地の購入を希望することは有り得ない。

(イ) 次に、倉庫業者についてみると、海上運送の革新により利用されなくなつた旧来の岸壁には、不要になつた倉庫が数多く出現するようになつたので、これを観光客の誘致に役立てようという構想が生れる位である。今、倉庫業者が必要とする倉庫は近代化された埠頭と一体的、有機的利用を行うことが出来る機械化された大型のものである。ところが、本件土地は建ぺい率六〇パーセント、容積率二〇〇パーセントの土地であるから、本件土地に建設できる倉庫は、今、神戸市が観光にでも利用しようとしているような低層の倉庫しか建てられない。しかも、景観を十分に配慮せよとか、隣接する病院、研究所との良好な環境を保持せよというような条件をつけているのであるから、こんな条件のついた場所に倉庫を建てようとする業者が居る訳がない。

(ウ) 最後に、船会社について、考えると、船会社はポートアイランド内の公共埠頭を専用使用する特権を与えられている。船会社は、国家資金を投入して建設された広大な埠頭を一単位ごとに独占的に使用できるのであるから、何も、多額の資金を出して人工島の一部を購入する必要がない。しかも、船会社の立場からみると、本件土地は湾岸道路より内陸部にあるから、利用価値の低い土地である。既に、船会社は本件土地より岸壁に近く、これより利用価値の多い土地を広範囲に亘つて専用使用をしているのであるから、船会社もまた、本件土地の購入を希望する筈がない。

(7) 本件土地はゴルフ練習場に最適の土地である。

ア 本件土地は、前記のように湾岸道路の内陸側にあつて、港湾関連企業の用地には全く不適当な土地であるが、ゴルフ練習場としては最適の土地であり、ポートアイランド内では、ゴルフ練習場にこれ以上に適した土地は存在しない。

イ 車を利用するゴルファーであれば、神戸大橋を渡つて湾岸通りを南進すると、進行方向のすぐ左手に本件ゴルフ練習場が存在し、本件土地に約八〇台収容の駐車場が設けられているので、これに車を置いて心置きなくゴルフの練習が出来る。また、交通機関を利用するゴルファーもポートライナーの市民病院駅で下車すると、駅前の市民病院の裏手に本件ゴルフ練習場が存在するので、駅から徒歩五分の場所にある。車を利用する場合も交通機関を利用する場合も、交通至便である。

ウ 本件土地は平垣地であつて、アップ、ダウンがないので、ゴルフの練習にうつてつけの土地である。しかも、南北が長いので、練習客は自分が打つた球がネットにさえぎられずに地面に落下するところまで確めることが出来、その飛距離、方向を参考にして自己の技量の向上に役立てることが出来る。打席は南側に設けられて、北に向つて打つようになつているので、日光に邪魔されずに自分の球の行方を確められる。また、本件土地は打席のある南側が広く北側が狭くなつているので、南側に上下二段で九〇打席の設置が可能となつている。

エ なお、本件土地が立地条件からみて最適のゴルフ練習場であることは前述のとおりであるが、本件土地の南側には目下、野球、テニス等の体育リクリエーション施設が建設中である。本件土地及びその周辺地はもともと都市機能用地のうちでも主として球技場用地として造成されたものである(乙第一号証の施設位置図と施設一覧より)ことは明らかである。

この点、神戸市水道局は右球技場を「下水処理場の三次処理施設をつくるまでの暫定的な施設」と弁解しているが、現球技場が下水処理場予定地であるということ自体が虚構であることは明白である。

そうすると、本件土地は都市計画上もゴルフ練習場として将来も現状どおりに使用されることは明らかである。

(二) 本件ゴルフ練習場の設備は恒久的設備である。

すなわち、本件ゴルフ練習場の東側、北側、西側の三方は、ビルの数階分に匹敵する高さの巨大なネットで囲まれ、しかも、右ネットは強い風圧に耐えられるような頑丈な高層建築物ともいえる鉄骨で支えられている。南側は、東西方向に弧状を画いた鉄骨造りの二階建ての建築物であつて、一階及び二階に九〇打席が設けられ、右打席に続いて事務室の外喫茶、軽食、プロショップ等の高級な付帯設備が設けられている。これら建物の近くに約八〇台収容の駐車場設備まで設けており、これらの建造物の建築費が一億六七五八万八〇〇〇円に及んでいる。

したがつて、右のような本件土地に設けられた右設備の恒久性からみても、事業団のゴルフ練習場の経営が暫定的なものではなく、恒久的なものであることは明らかである。被告もこれを当然の前提として、事業団が本件土地に前記諸設備を建設することを承諾したものとみるべきである。

(三) 本件ゴルフ練習場の経営が暫定的なものであると窺わせる客観的証拠はない。

(1) まず、神戸市広報課の発行したポートアイランドのあらましの施設一覧及び位置図や神戸市発行のポートアイランドの地図にも、本件ゴルフ練習場の記載があるが、これが暫定的な施設であると窺わせる記載は何もない。

(2) 本件ゴルフ練習場の入口にポーアイ・グリーン・センターという大きな案内板が設けられ、これに芝生産地、ゴルフ練習場と掲示されているが、これをみても暫定的な経営とは到底みられない。

(3) しかも、事業団の昭和五四年度決算書をみると「ポートアイランドにおいて、市民の健康増進と用地の管理を兼ねた施設として、ゴルフ練習場を建設した」と記載されているが、右記載は、右施設が恒久的なものであることを前提とするものである。若し、暫定的な施設であれば、そのことが窺える表現になつている筈である。

(4) ところが、被告、神戸市、事業団が本件ゴルフ練習場の経営を暫定的なものであると主張するのは単なる言い逃れにすぎない。

(四) 本件土地は神戸市が事業団に恒久的にゴルフ練習場用地として使用させる目的で所有している土地であり、売却用地ではない。

(1) 本件土地は、被告主張のような海運・港運関連の流通業務用地に売却が予定された土地とみられるような外観を呈していないうえ、出入口にポーアイ・グリーン・センターという大きな看板を設けたうえ、その中に芝生産地・ゴルフ練習場という用途まで掲示している。

(2) さらに、被告自身がマスコミ等に対し、ポートアイランドのゆとりある施設づくりのためにある程度の市有地を確保する予定でいたが一〇万平方メートルしか残せなかつたと語つており(東洋経済昭和五九年二月四日号など)しかも、本件土地は約二一四〇〇平方メートルの土地で右市有地一〇万平方メートルに含まれていることは明らかであることからみても、本件土地を売却する意思のないことは明らかである。

(3) 被告が当初から真に海運・港運関係の流通業務用地として売却を予定しているのなら、ポートアイランドの利用計画は何年も前から綿密な検討のもとに行われ、海運・港運関連企業にも周知のことであるから、神戸ポートアイランド博覧会が閉会(昭和五六年九月一五日)後既に四年余り経過しているのに、未だ「本来の利用目的に合致した」企業も見当らず、「具体的な売却計画」もたたないということはありえない(ポートアイランドの利用計画の内容からみて、本件土地が海運・港運関連の流通業務用地でないことは前述のとおりである)。被告が本来の進出企業も見当らず、また具体的計画が立たないというのは、事業団に利用させるための名目にすぎず、実際は、最初からゴルフ練習場営業の営業施設として利用させる意図であり、これを売却する意思のないものといわざるをえない。事実、被告が本件土地を本当に売却する意思であるならば、直ちにゴルフ練習場を廃止して更地か、あるいはこれに近い状態にして買い手を待つべきであるのに、本件土地にゴルフ練習場としての恒久的設備を設けていることは、客観的にみても、本件土地を売却しないということを世間に公表しているのと同じてある。

(4) なお、被告は本件土地が現在でも暫定的貸付地であり、当初の利用計画のとおり流通業務用地としての売却を予定しており、昨年においても関係業界に買受希望調査を行つたことをあげている。しかし、海運・港運関係の業界の現状からみて、右計画どおり、流通業務用地として売却できる見込みのないことは明白であり、右調査も単なる口実に過ぎない。

(五) 事業団は本件土地でゴルフ練習場の営業を行う以前、ポートアイランド内の別の場所で同種の営業を行つている。

(1) 事業団がゴルフ練習場の営業を行つたのは、本件土地が始めてではない。これ以前に、昭和五二年七月二一日から昭和五四年八月七日までの約二年間本件土地の南側にある港島中町五丁目及び同六丁目のポートアイランドの造成地でゴルフ練習場を経営していた。

(2) このように、事業団が本件土地でゴルフ練習場の経営を始める以前、約二年間に亘つて同種の営業を行つていたことは、事業団のゴルフ練習場の経営が臨時的なものでなく、長期に亘つてこの種の経営を続行する意思であることを示すのものである。

(六) しかも、事業団は旧練習場から新練習場に移転するに際し、仮説の設備から恒久的設備に切り替えている。

(1) 前記の旧練習場はネットがなく、土盛用の土塁をもつてネット代りとしたものであり、打席も六〇で、現営業所の三分の二にすぎないうえ、その内二〇打席は青空の吹きさらしの打席で残りの四〇打席には屋根があるが、単にプレハブの屋根がついているだけで、事務所等は名谷団地で使用していた仮設スーパーの店舗を転用したものであつて、食堂等はなく飲食用の自動販売機が置かれていたにすぎず、全く仮設の暫定的設備であつた。

(2) しかるに、現練習場は打席が九〇打席に増大しているうえ、約一億七〇〇〇万円の巨費を投じて建設した恒久的設備である。

(3) このように、営業設備が仮設の設備から恒久的設備に切り替えられたことは、事業団がゴルフ練習場の経営を本格的かつ恒久的に開始継続する意思を持つたことを示すものである。

(七) 事業団は旧練習場開設当時、神戸ゴルフ練習場協会になした約束を破つている。

(1) 事業団は、旧練習場の開設直後、右協会の質問に対し、ゴルフ練習場の営業期限はインターナショナルスクエアー用地にあるため、本来の事業実施までの暫定期間に限定されると、理事長井尻昌一名義の文書で回答した。この回答を受取つた協会所属の業者は、インターナショナルスクエアー用地というのはポートアイランド博覧会に使用される用地であり、ポーアイ博が終了する頃には、ゴルフ練習場の施設は撤去されるものと理解していたので、三年もすれば事業団はゴルフ練習場の経営をやめると信じていたのである。

したがつて、神戸市が昭和五六年三月三一日に三菱地所株式会社に旧練習場用地を高層住宅用地として売却し、これがインターナショナルスクエアー用地の本来の事業に適合したものであるならば、事業団は右の約束どおりのゴルフ練習場の営業期限が到来したのであるから、ゴルフ練習場の経営をすべてやめるべきであつた。

(2) しかるに、事業団はポーアイ博の始まる以前にゴルフ練習場の営業場所を本件土地に移転したうえ、前記の如く仮説の設備から現在の本格的な恒久設備に切替えて営業を継続したのである。

(3) このように、事業団が業者に対してなした理事長名の文書による約束を公然と破つたのであるから、事業団のいう暫定的という表現はその文字どおりのものでなく、原告等事業者を欺罔する口実にすぎないのである。

(八) 事業団は抽象的に暫定期間であることを繰り返すだけで、具体的期限を明示しない。

(1) 原告らは内容証明郵便を以つて再三に亘り事業団に対し事業団がゴルフ練習場を経営する暫定期間とは何時までを指すか、その具体的期限の明示を求めたが、事業団は抽象的に本来の目的・用途に合致した利用がなされるまでの暫定期間であることを繰り返すだけで、具体的期限を明示しなかつた。

(2) 本訴においても、被告は事業団と同様に暫定期間であることを繰り返すにすぎず、その具体的期限を明らかにせず、被告側証人もこれと同じ態度を取つている。

(3) これからみても、事業団や神戸市等が暫定的利用だというのは、単に口先で言つていることにすぎないことは明白である。

(九) 事業団は旧練習場開設以来八年の長期に亘つて、ゴルフ練習場の経営を続けている。

(1) 事業団が真に暫定期間に限定してゴルフ練習場を経営する意思であるか、或いは事業団の本当の意思がこの経営を恒久的に続けることにあるのかということは、事業団の客観的行動から合理的に推測すべきものである。

(2) この面からみると、事業団がゴルフ練習場の経営を開始した時期は、旧練習場を開設した昭和五二年七月であり、それ以来今日まで約八年という長期間に亘つてゴルフ練習場の経営が続けられている。しかも、現時点でも事業団は右経営を廃止する具体的期限を明しておらず、現に、本件土地でゴルフ練習場を経営し年間一億数百万円の収益をあげている。これらの事実からみて、被告が暫定的利用であるというのは虚構であり、真実は事業団が本件土地をゴルフ練習場として恒久的に利用し収益の増大をはかる意図であることは明白である。

(一〇) 本件土地が港湾関連の流通業務用地であるというのは、事業団に本件土地を恒久的に使用させるための隠れ蓑にすぎない。

(1) 神戸ポートアイランド博覧会はポートアイランドの完成を記念して開催されたものである。このポーアイ博が閉会したのは昭和五六年九月一五日であるから、それ以来既に約四年が経過している。神戸市開発局に真に本件土地を売却する意思があるなら、本件土地は既に売却済みとなつていなければならない筈である。何故なら、ポーアイ博のような大成功をおさめ、九〇億を越える剰余金を取得した博覧会を企画し実行した神戸市の関係者にとつては、本件土地を売却するぐらいは極めて容易であるとみられるからである。

(2) しかるに、神戸市開発局の担当課長等は本件土地を売却するための具体的行動を全くとらず、このことを原告代理人から指摘された後、港湾関係の団体に本件土地の需要の動向を調査している。しかも、単なる調査依頼を行つただけで、その結果から本件土地の売却先を見直すというような検討がなされたという形跡がなく、関係団体の回答書も裁判所に提示されていない。したがつて、本件土地の需要意向調査(昭和五九年九月二〇日神戸市開発局長決裁)は単に本件土地を売却する意思があると装うための偽装工作にすぎない。

(3) 大体、この種の調査は本来本件土地を海運・港運関係の流通業務用地と決める以前になされていなければならないのに、それを今頃行うこと自体が不可解である。このような神戸市の担当者の行動からみて、本件土地の用途決定がなんらの根拠もなく、独断的になされたものと考えざるを得ない。

(4) しかも、先に詳論したように、本件土地が港湾関連流通業務用地である訳がない。

しかるに、神戸市開発局の担当者の証言するところでは、本件土地が港湾に関連する流通業務用地として売却するというのは、絶対に変更することが許されない基本原則であるかのように述べている。しかし、いくら特定の用途に売却する方針であつても、その方針の実現が困難であれば、柔軟に対処して利用目的の変更を行うのが当然である。現に、旧練習場の用地は、それがオープンした昭和五二年七月時点ではケミカルシューズや家具関係の企業用のファッションタウンにする計画であつたが、その後旧練習場の東半分は三菱地所が建設する高層集合住宅用地に変更され、残りの西半分も昭和五七年一〇月頃は下水処理場にする計画に変更されたが、その後、この計画も取り消されて、関西電力に売却され、現在関電所有地となつている。しかるに、本件土地に関する限り、ポートアイランドの竣工の何年も前に作られた計画をかたくなに変更しようとしない。しかも、コンテナー化が進展する港湾の現状をみると、従来の港湾関連企業の活動分野が次第に狭まり、海陸複合一貫輸送体系が確立してゆく中で、港湾が単なる貨物の通過基点に過ぎなくなる傾向が生じ、在来埠頭の取扱貨物量の減少もあつて、倉庫、上屋等が余る状勢となつている。この現況からみて、本件土地が港湾関連の流通業務用地として売却できる見込みは全くない。それでも本件土地が本来港湾関連の流通業務用地であるというのは、結局のところ、事業団に本件土地をゴルフ練習場として恒久的に使用せしめるための隠れ蓑にすぎないのである。

(二) 暫定使用ということは、議会の議決を回避するための偽装である。

本件土地は、神戸市の普通財産であり、神戸市は議会の議決によらなければ、正当な対価をとらずに本件土地を賃貸することが出来ない(地方自治法二三七条二項)。したがつて、事業団に適正な対価をとらずに賃貸するには、議会の議決が要るが、被告はこの議会の議決を回避するために、事業団に暫定的に使用させるにすぎないという口実を設け、この口実を正当化するため、本件土地が港湾関連の流通業務用地であるという隠れ蓑を案出したのである。

第三  証拠〈省略〉

理由

一請求原因1項の事実のうち原告らが神戸市の住民であること及び被告が昭和四四年一一月二八日以降神戸市長の職にあること並びに請求原因5項の事実は当事者間に争いがない。

二被告の本案前の主張について

1  被告は、本件訴えのうち昭和五四年八月七日から昭和五五年一二月二三日までの損害賠償を請求する部分は地方自治法二四二条二項に違反し不適法である旨主張する。

しかしながら、同条項の定める監査請求期間の制限は、同条一項に規定する「行為」すなわち普通地方公共団体の機関又は職員による違法若しくは不当な公金の支出等の四種類の財務会計上の行為を監査請求の対象とする場合に限られるものであつて、いわゆる「怠る事実」を対象とする場合については、その性質上監査請求の期間計算の起算点を求めることが困難であること、行政不服審査法においても不作為については特に審査請求期間を設けていないことなどから同法二項の期間制限の規定の適用がないものと解するのが相当である(最高裁昭和五二年(行ツ)第八四号事件同五三年六月二三日第三小法廷判決・裁判集民事一二四号一四五頁参照)。これを本件についてみると、〈証拠〉によると、原告らはその監査請求において、被告が神戸市の受任者たる市長として善管注意義務をもつて本件土地を遅滞なく時価で譲渡しその代金をもつて借入金を返済し支払利息の負担軽減をはかるべきであるにもかかわらず、これを譲渡せず事業団に無償で使用させていることは適法な財産管理を怠つているものであつて、その結果神戸市は本来支払を要しない筈の、昭和五四年八月七日以降発生する利息の支払を要することとなり、損害を受けたとして、神戸市長である被告が自らに対し損害賠償請求をする等適当な措置をすることを求めていることが認められ、同認定を左右するに足りる証拠がない。そうすると、原告らの監査請求は、被告の不当又は違法に財産管理を怠る事実に対しその是正を講ずべきことを求めたものということができるから、地方自治法二四二条二項の期間制限の規定の適用はなく、よつてこの点の被告の主張は失当といわなければならない。

2  次に、被告は、原告らの本件住民訴訟は地方自治法二四二条の二第一項四号に基づくものであるから違法に本件土地の管理を怠つたことを主張すべきところ、原告らの本件土地の賃料が適当か否かの主張は「不当」の主張にすぎず、「違法」の主張とはいえないから、本件訴えは不適法である旨主張する。

しかしながら、原告らは、まず第一に被告が本件土地を遅滞なく時価で譲渡しなかつたことが違法であると主張したうえ、本件土地の貸借関係も違法な使用貸借にすぎないと主張しているのであつて、単に本件土地の賃料が適当か否かのみを主張しているものではないから、被告の右主張は採用できない。

3  さらに、被告は、原告らの本件訴えにつき、「財産の管理を怠る事実」の不存在、あるいは地方自治法二四二条の二第一項四号の代位の要件として要求されるべき客観的要件(被告の違法な行為等によつて地方公共団体に損害が発生したこと)の不存在を理由に、本件訴えの不適法を主張するが、被告の主張内容はいずれも原告らの主張を理由あらしめる事実の不存在を主張しているにすぎない。

三そこで、以下被告に、原告ら主張の違法に本件土地の管理を怠る事実があるか否かについて検討する。

1  〈証拠〉を総合すると、以下の事実を認めることができ、右認定に反し又は右認定を左右するに足りる証拠はない。

(一)  神戸市は、昭和三八年頃から新しい人工島の開発構想について検討を重ね、神戸市が主体となり、総工費五三〇〇億円(神戸市債及び神戸市マルク債の発行等により調達したものが大部分を占める)を投入して昭和四一年から「住み、働き、憩い、学ぶ」という総合的な都市機能を備えた「二一世紀の海上文化都市」ポートアイランドの建設に着手した(なお、その事業主体及びその事業内容は被告主張のとおりである。)。その建設目的は、①海上輸送の量的増大、コンテナ化に対応しうる近代的な港をつくること、②神戸市の都市機能を充実させ、市民生活にとけこんだ新しい都市空間をつくること(土砂採取跡地に須磨ニュータウンを、海上にポートアイランドを建設するという一石二鳥の開発方式)、③公共的な資本投下を集中的に行い、経済・雇傭の拡大を図ること、④国際的な経済、文化、情報の交流拠点とすること、⑤新しい発想や技術を取り入れ、未来都市づくりへの実験的役割を果たすことである。そして、このポートアイランド造成事業は、地方公営企業法二条三項、地方公営企業法の財務規定等を適用する事業の設置等に関する条例(神戸市昭和四一年一二月二〇日条例第三六号)二条、六条の規定に基づく開発事業の一環として行われているもので、地方公営企業法二条二項に規定する財務規定等が適用される。

(二)  この開発事業は、長期の造成計画、処分計画及び資金計画に基づいて実施されている。特に、土地利用は、①埠頭用地一四六ヘクタール、②港湾機能用地八七ヘクタール、③道路護岸等の用地八三ヘクタール、④インターナショナルスクエア(島内の「都心」。経済、文化、情報の交流拠点で、同時に市民の「憩う」機能の拠点)三二ヘクタール、⑤コミュニティスクエア(「住み、学ぶ」機能の部分)二三ヘクタール、⑥公園・緑地二四ヘクタール、⑦市街地サービス・公共公益施設用地一五ヘクタール、⑧流通業務地区二一ヘクタール、⑨加工サービス地区五ヘクタール等にわかれ、売却可能面積二七四・五ヘクタールのうち昭和五五年度末現在で八九パーセントの土地が処分済みで、残余の三〇・一ヘクタールの土地が売れずに残つている。

(三)  本件土地は、ポートアイランド造成事業の結果生じたもので、神戸市は公有水面埋立法二四条の規定に基づき昭和五〇年五月一〇日にその所有権を取得した。そして、本件土地は前記流通業務地区に属し、その位置は別紙(五)のⅡの部分である。

(四)  ところで、事業団(主たる事務所の所在は神戸市中央区港島中町四丁目一番一)は、昭和四四年四月一五日に設立認可を受け同月二二日に成立した財団法人で、その資金二〇〇〇万円は全額神戸市が出資し、役員及び幹部職員の大半は神戸派遣の職員で構成する神戸市の外郭団体である。その目的は、神戸市が開発事業を記念して設置した福祉、文化及びリクリエーション等の施設を管理運営し、あわせて開発事業に関する各種役務を提供することにより、市民の福祉の増進と文化の向上を図ることにあり、その事業内容は、①游泳施設及びこれに付帯する施設の管理運営に関する事業、②球技場及びこれに付帯する施設の管理運営に関する事業、③福祉文化施設及びこれに付帯する施設の管理運営に関する事業、④神戸市並びに進出企業及び団地内住民から委託を受けて行う埋立地及び住宅団地の管理運営に関する事業、⑤開発地域における進出企業及び団地公益施設等の関連住宅並びに各種施設の用地の取得、造成、管理及び処分、⑥右に掲げたもののほか、前記目的を達成するために必要な事業である。そして、事業団は、これら事業の実施に必要な財源を確保するため、グリーンセンター(ゴルフ練習場)等の収益的事業も付帯事業として実施している。

また、神戸市と事業団の関係について、地方自治法上は、予算執行の適正化のために神戸市長である被告の調査権が及ぶと共に、被告には事業団の経営状況を説明する書類を作成して議会に提出することが義務づけられており、さらに、その寄付行為においては、事業団の事業計画、資金計画、収支予算、事業報告及び収支決算について理事会で議決又は承認を行おうとするときは、あらかじめ神戸市長の承認を受けなければならないとされているほか、その事業運営についても、神戸市開発局と密接に連絡、調整を保ちながら実施するものであつて、事業団は市民の福祉の増進という公共目的をもつて神戸市の前記監督協力のもとに公益事業を神戸市に代つて補完的に実施する公益法人である。

(五)  事業団が、ゴルフ練習場であるグリーンセンターを経営するに至つたのは、ポートアイランド内で多量に芝を必要としたことから、その育成をしながら住民にリクリエーション施設を提供する(この点は、島内住民及び企業からの要望もあつた。)という一石二鳥の効果をねらつて、ゴルフ練習場を設けるに至つたものである。当初は、芝育成の必要から数年間は売却できそうにないと見定めた別紙(五)のⅠの部分において売却までの間の暫定的使用としてグリーンセンターを昭和五二年七月二一日に開設した。この練習場(旧練習場)は、当時まだ半造成の状態で、施設も打席が六〇でうち四〇打席にプレハブの屋根がついているにすぎず、ネットの施設は設けられていなかつた。その後、同土地の一部を高層住宅兼商店として利用する計画がまとまり、売却する必要がでてきたことから、事業団は、神戸市から本件土地を借り受け、これが売却に至るまでの暫定的使用としてではあるが、同地上に一億数千万円の資金を投じて、北・東・西側は鉄骨で支えた巨大なネット(付近が道路でありゴルフボールが練習場から出ないようにする必要がある。)を、南側は鉄骨造り二階建ての打席九〇のほか、事務室、喫茶・軽食、プロショップ、約八〇台収容可能な駐車場等の付帯設備を整えて、昭和五四年八月八日から再びグリーンセンターを開設し、芝の育成及びゴルフ練習場として使用しているが、今日に至つてもなお本件土地の売却処分先は決つていない。

なお、関係者の間では、本件土地の使用期間はおおむね五ないし七年とし、その間に前記設備費の償却も可能なものと考えられていた。

(六)  本件土地の貸借関係については、昭和五五年四月一日に神戸市の代表者被告と事業団との間で、土地賃貸借契約書(乙第三号証)が交されている。

その内容の要旨は、

(1) 本件土地は、神戸市の定める利用計画にしたがい処分先が定まるまでの間臨時的に貸し付けるものであること

(2) 処分先が決定したときは、神戸市は一か月の期間をもつて事業団に本件土地の返還を求めることができ、その際、事業団はその費用をもつて本件土地上に設置した建物その他の工作物等を撤去するなど原状に回復しなければならないこと

(3) 本件土地の用途は、ゴルフ練習場及び緑地管理事務所として使用するもので、賃料(年額)は

固定資産評価見込額×0.06×0.28333とすること

(4) 契約期間は、昭和五五年四月一日から昭和五六年三月三一日までとし、特段の意思表示のないかぎり一年間自動更新することである。

そして、昭和五七年三月三一日には、昭和五六年度の本件土地の賃料として一八二一万二七三六円が事業団から神戸市に支払われている。なお、昭和五五年度分については昭和五七年一月七日に他の賃借物件の賃料に含めて同額の賃料が神戸市に支払われている。

(七)  原告らは、神戸市内においてゴルフ練習場を経営する者であるが、グリーンセンターの開設によりその経営が圧迫されることから、昭和五二年、同五五年に右ゴルフ練習場の閉鎖撤去等を求める申入れをしたが、事業団は、本件土地(旧練習場も同様)を本来の事業実施までの間用地管理の一形態として暫定的に利用して、芝の育成とゴルフ練習場開設により島内立地の企業に従事する市民の健康増進・リクリエーションに寄与する旨回答するにとどまつた。

(八)  ところで、本件土地は、流通業務(例えば倉庫とかトラックターミナルとして使用)地区に属し、今日に至るまで売却されていないが、これは、神戸市が本件土地を保有地として残す意図を有していたためではなく、港湾関係のほか流通業務関係業界の景気がよくなかつたことや本件土地の用途が利用計画により制限されていたために買い手がなかつたためである。そして、神戸市においても昭和五九年九月に至り、関係団体に対し、本件土地の需要調査を実施するに至つた。

2  以上の事実を前提に、被告に原告主張のような怠る事実が存するか検討する。

(一)  普通地方公共団体の長は、当該団体を統括し、これを代表して、当該団体の事務を自らの責任と判断で管理しその執行にあたる(地方自治法一三八条の二、一四七条、一四八条)が、地方自治法は長の権限の主要なものの一つとして財産の取得、管理及び処分をあげ(同法一四九条六号)、また、地方財政法は、地方公共団体の財産につき「常に良好の状態においてこれを管理し、その所有の目的に応じて最も効率的」に運用すべきもの(同法八条)と規定している。

ところで、前記認定から明らかなように、本件土地は普通財産であり、したがつて直接行政目的に供するものではなく、主として経済的価値の保全発揮により、その管理処分から生じた収益を地方公共団体の財源にあて、間接に地方公共団体の行政に貢献させるために管理処分するものであるが、前記神戸市条例(昭和四一年一二月二〇日条例第三六号)によれば、開発事業は、常に事業の経済性を発揮するとともに、公共の福祉を増進するように運営されなければならない(同条例三条)とされ、地方公営企業法二条二項に規定する財務規定等が適用されている(同条例二条二項)。それによれば、右財務規定等は、開発事業の経営に関しては、地方自治法、地方財政法に対し特例を定めたものであり(地方公営企業法六条の準用)、開発事業の計理は特別会計をもうけて行うこと(同法一七条の準用)、開発事業の用に供する資産の取得、管理及び処分は、管理者(本件開発事業において特に管理者を定めた規定は見当たらないので神戸市長が管理者となる。)が行うこと(同法三三条の準用)、財産の取得、管理及び処分には地方自治法二三七条二項の規定の適用がないこと(同法四〇条一項の準用)などとなる。

そして、地方公共団体とその長との関係は、長の地位・職務内容に照らし、本質的には委任関係と解すべきであり、特に本件のような開発事業の用に供する財産については、被告は地方公共団体の長として善良な管理者の注意をもつて管理し、右条例三条に定める経営の基本方針に基づいて最も効果のあがるように誠実に運営すべきものである。

(二)  ところで、原告らは、神戸市の市債残高が別紙(一)のとおり昭和五六年以降既に一兆円を越え、開発事業の実施に伴いその歳出金額(別紙(二)のとおり)及び未償還残高(別紙(三)のとおり)も増加の一途をたどり神戸市の財政は危機的状況に陥つているとし、時価三〇億円を越える本件土地を早期に売却してその投下資本の回収及び市の財政負担の軽減をはからないことは善良な管理者としての注意義務に違反し違法である旨主張する。

しかしながら、本件土地の管理処分は、神戸市長たる被告が前記条例三条に規定する経営の基本方針に基づき善良なる管理者の注意義務をもつて誠実に行うべきいわば行政決定の問題であり、その意味では被告の自由裁量の範囲内の事項であつて、それが裁量の範囲を逸脱し著しく不当なものでない限り違法と解すべきではない。そして、前記認定事実のもとにおいては、被告が本件土地を売却しなかつたことを違法と解することはできず、他にこれを違法と解すべき特段の事情もみられないので、原告らの右主張はとうてい採用できない。

(三)  次に、原告らは、本件土地の賃貸借契約は、地方自治法二三七条二項に違反し、さらに金額も真実支払われているか疑問であり、仮に支払われているとしても正当な対価とはいえないから使用貸借契約にすぎないので、被告は違法に本件土地の正当な対価の徴収を怠つている旨主張する。

(1) まず、原告ら主張の地方自治法二三七条二項違反の点であるが、前述のとおり、前記神戸市条例二条二項により地方公営企業法四〇条一項の規定が準用されることから本件土地の管理には地方自治法二三七条二項の規定の適用がないことは明らかである。

(2) 次に、賃料支払いの点であるが、前記認定のとおり、事業団から神戸市に本件土地使用の対価として、昭和五五年度及び同五六年度にはいずれも一八二一万二七三六円が支払われており、その後も同様に支払われていることが容易に推認できるので、本件土地の貸借関係は賃貸借と解することができる。

そこで、賃料額の点であるが、前述のとおり地方自治法二三七条二項の適用が排除された趣旨に鑑み、本件土地の管理内容に属する賃料は、前記のとおり、被告が前記条例三条の基本方針に基づき善良なる管理者の注意をもつて誠実に定めるべき裁量の範囲内の事項であつて、それが裁量の範囲を逸脱し著しく不当なものでない限りは違法と解することはできない。そして、前記のとおり、本件土地を売却時まで空地のまま管理せずに事業団に貸し付けグリーンセンターを開設することは、市民の福祉の増進に寄与するという前記条例三条の基本方針に添うものであること、〈証拠〉を総合すると、神戸市は本来本件土地からは固定資産税及び都市計画税を取得しうるにすぎなかつたことから、被告は事業団の前記性格機能、本件土地使用の目的・期間などに鑑み右税相当額を賃料収益として取得すれば足りるという配慮のもとに右賃料額を定めたことが認められること、しかも、本件土地の賃貸借が暫定的なものであるうえ、事業団は本件土地明渡時には自己の費用でもつて本件ゴルフ練習場設備を撤去しなければならないので、事業団としてはそれまでに前記設備投資費約一億数千万円を償却しなければならなかつたこと、さらに、神戸市の「財産の交換、贈与、無償貸付等に関する条例」(昭和三九年三月二三日条例第七九号)七条には、普通財産の貸付けには、公益上特に必要があるときは貸付料を減じて貸付け又は減免できると規定していることなどを合わせ考慮すると、被告の定めた前記貸付料は、通常賃借人が必要費として当然に負担すべき右税相当額に留まつているけれども、本件のような場合には、被告は右条例七条により貸付料を減じて貸付けうるので、これがとうてい被告の裁量の範囲を逸脱した違法なものと解することはできない(地方財政法八条も原告ら主張の根拠規定とはいえない)。

(四)  なお、原告らは、事業団の本件土地使用は恒久性があるので前記賃料の定めは違法であるとし、その理由を「原告の反論4」のとおり詳細に主張する。

しかしながら、前記認定のとおり、本件土地が流通業務地区に属し、昭和五九年九月には関係団体に対し本件土地の需要調査を実施するに至つていること、原告らに対し本件土地使用は暫定的であると何度も繰り返し回答していること、今日に至るまで本件土地を売却できなかつたのは前記認定のような事情によること、神戸市と事業団との本件土地の賃貸借契約においても、臨時的貸付けと定めていること(原告らは、この賃貸借契約書(乙第三号証)は当事者間で馴合いにより作成されたものと主張するが、同契約書どおり賃料が現実に支払われていることは前記認定のとおりであり、したがつて馴合いによるものとは到底いえない。)、ゴルフ練習場等の施設の建設費は一億数千万円要したが、事業団としてはその償却期間を神戸市開発局の担当者等との非公式の話合いから五ないし七年と予測していた(ちなみに、〈証拠〉によれば、昭和五五年度のグリーンセンターゴルフ練習場の利用実績は九万六二二七人、一億二一七二万九四〇〇円となつており、右金額からして、前記建設費の償却は今日ではおおむね終つたものと推認できる。)ことのほか、原告ら主張の内容はそのほとんどが単なる推測に基づくものにすぎないことなどからすると、原告らの、本件土地使用が恒久的であることを前提とした右主張は到底採用できない。

(五)  最後に、原告らは、事業団が娯楽施設利用税を課せられるようなレジャー産業たるゴルフ練習場を経営することは、民法三四条に反し、このような事業に神戸市が本件土地を賃貸するのは公共の福祉を阻害するもので開発事業の経営の基本(原告代理人は地方公営企業法三条違反と主張するが、むしろ前記神戸市条例(昭和四一年一二月二〇日条例第三六号)三条違反である。)に反し違法である旨主張する。

しかしながら、右主張は、被告の怠る事実の主張といえないことは明らかである。なお、原告らは被告の行為の違法性を基礎付ける事実として右主張をしているとしても、前記認定のように、事業団はその目的事業達成のため前記公共的見地に立つてグリーンセンターを開設して収益を得ているにすぎないのであるから、これが直ちに民法三四条に違反し違法なものとはいえない。

3  以上のとおり、被告は違法に本件土地の管理を怠つているものとはいえないから、原告らの本件請求はその余の点について判断するまでもなく理由がない。

四結論

よつて、本件請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官野田殷稔 裁判官小林一好 裁判官横山光雄)

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